金への投資には2つのリスクがある
しかし、この金を投資の対象として見ると、2つのリスクがあります。
1つは「価格変動」のリスクです。なので、株式投資と同じように「高値で買ってしまう」可能性もあります。ちなみに、過去10年で米ドル建ての金価格は、1トロイオンス(約31.1グラム)=1050~1900ドルほどで推移してきました。
2つ目は「為替変動」のリスクです。金は世界中、ドルで取引することになっています。その理由は歴史に答えがあるのですが、答えは機会を改めて説明したいと思います。過去10年のドル/円の為替レートは75~125円くらいでした。
ヨーロッパのお金は、冷戦の頃にはマルクやフランなどがありましたが、今では多くの国がユーロを採用しています。いずれにせよ、ヨーロッパの通貨はドルではありませんので、為替変動のリスクは否めません。我が国もドルではなく円ですから、金の取引では価格変動のリスクに加えて、為替変動のリスクがありますね。
ところで、価格変動は売却益もしくは売却損のいずれかを生み、為替変動は為替差益か為替差損のいずれかをもたらします。
そして、この2つの変動は、売却益と為替差益が同時に生じ、利益を大きくすることもあれば、売却益を為替差損が打ち消して(相殺して)しまうこともありますし、最悪な時は売却損と為替差損の両方を同時に被ってしまうこともあるのです。ヨーロッパはもちろん、私たちにとっても金はハイリスクな投資ですね。
ここでいったん、まとめます。
ヨーロッパの富裕層の人々は「核戦争に対するリスクヘッジの一環」として金を保有するのですが、価格変動と為替変動の2つの変動リスクから、それぞれ利益もしくは損失が生じ、生じるタイミングによっては利益が大きくなることもあれば、利益と損失を打ち消し合うこともあり、そして最悪の場合もある、ということです。
金にはインカムゲインがない、つまり時間は味方にならない?
核戦争のリスクヘッジではなく、投資対象としての金で知っていただきたい点が、もう一つあります。
「金にはインカムゲインがない」という点です。不動産の家賃、株式の配当金と株主優待、そして債券や預金の利息に相当するインカムゲインが、金には全くないのです。
インカムゲインが全くないと言うことは、金には時間の経過とともに「インカムゲインが積み上がる」こともなく、時間の経過によって得ることができる「複利の効果」もありません。
例えば、債券の利息はそのままでは複利効果を生みませんが、筆者は外国債から得た利息を外貨建てMMFで運用しています。そして、外国債の満期(償還)時に帰ってくる額面(≒元本)と、外貨建てMMFで運用した利息を合わせて、次の外国債の購入に充てています。そうすることで、いくらかの「複利の効果」を得ることができます。金には利息がないので、そのような運用ができないのです。
そもそも、金は資源の一つにすぎません。株式を発行する企業のように、時間の経過とともに成長を見込めません。
つまり、金にとって時間は「味方」ではなく、単なる「浪費」にしか過ぎないのです。
金と株式、債券、不動産との、簡単な比較を以下にまとめてみました。
金 (=ゴールド) |
国内株式 | 国内債券 | 国内不動産 | |
---|---|---|---|---|
価格変動 | あり | あり | あり | あり |
為替変動 | あり | なし | なし | なし |
インカムゲイン | なし | 配当金、優待 | 利息 | 家賃 |
満期 | なし | なし | あり | 無いが劣化する |
成長 | なし | あり | 影響なし | 周辺の再開発の恩恵 |
つまり、投資の対象としての金はインカムゲインもなく、成長もないため、価格変動(売却益)と為替変動(為替差益)の2つだけで勝負することになるのです。
核の炎に耐え得るかも知れない金も、投資対象として見るといかにハイリスクな投資なのかが、お分かりいただけましたでしょうか?
価格変動のある金を、為替変動のあるドルで積立投資していく「ドルコスト平均法」とは、ハイリスクな投資対象である金の2つのリスクを、時間の経過とともにならすことでハイリスクを抑えつつ、高値づかみを避けながら入手するというコンセプトなのです。