ストリートの「人の目」は防犯カメラを代替してきた。写真は中国・武漢の監視カメラ(ロイター/アフロ)

 2019年12月に中国湖北省武漢市で確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、日本を含め世界中で様々な対策がとられているが、流行収束にはまだ時間を要する。

 新型コロナウイルス感染症は、空気感染は想定されにくい一方で、人との濃厚接触による飛沫感染などのリスクが極めて高いとされ、接触を避けるため「Stay Home」が世界中で強く呼びかけられている。日本では、4月に改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令され、各地方自治体において、法に基づく外出自粛要請や店舗など施設の使用制限要請などによる外出抑制が図られた。

街頭の安全を守ってきた「人の目」

 一方、人々が外出しなくなるということは、すなわち路上を通行する人々が減少するということだ。国内外で、人通りがなくなり閑散とした街に不安を感じる声も少しずつ表面化しているようだ。

 人々が何気なく外を歩くことにより生まれる「人の目」は、防犯上重要な意味をもってきた。

 米国や英国の影響を受け、1980年代から日本に取り入れられた「防犯環境設計」(CPTED/Crime Prevention Through Environmental Design)という概念がある。これは、犯罪が発生しにくい環境を創るために、人的な防犯活動(ソフト面)とあわせて、建物、道路、公園等の物理的な環境(ハード面)を整備・強化し、犯罪の起きにくい環境を形成するという考え方である。

 その中では、周囲からの見通しを確保する「監視性の確保」が重要な要素とされ、「死角」のないまちづくりにより「人の目」の犯罪抑止効果を最大化することが推奨されてきた。

 これを踏まえると、外出自粛の長期化、社会全体の行動変化により街を歩く人が激減することは、安全・安心な街を支える当然の前提とされてきた「人の目」の減少、ひいては犯罪抑止力の低下をもたらす可能性がある。

「人の目」の犯罪抑止効果を試算

 では、これまで「人の目」はどの程度の犯罪抑止効果を担ってきたのか。そして、新型コロナウイルス感染症流行を受けた外出の減少は、犯罪抑止効果にどの程度影響するのか。「人の目」の存在による犯罪抑止効果と「防犯カメラ」の存在による犯罪抑止効果をそれぞれ指数化し、対比することによりインパクトを定量的に試算した。

 今回は、国内で最も人口の多い東京都を対象に試算を実施。「人の目」や防犯カメラが持つ犯罪抑止力については、道路上でその存在をはっきり認識できる範囲の面積(=効果が及ぶ広さ ※下記イメージ図参照)と、犯罪を犯そうとする者が犯行を思いとどまる確率(=効果の強さ ※過去の調査結果を参照して算出)の2つの要素を掛け合わせて指数化した。

 新型コロナウイルス感染症流行以前に生じていた「人の目」による犯罪抑止力(1日あたり総合計・指数)を推計した上で、緊急事態宣言下である現時点(試算を行った2020年4月中旬時点)における減少量を算出。現在の外出自粛レベルが今後もそのまま継続するものと想定し、犯罪抑止力の減少量を、防犯カメラ1台あたりの犯罪抑止力で割り込んで台数換算した。

人間が認識できる範囲の面積算出イメージ