新型コロナウイルスの感染拡大により閑散とした状態になった東京・新宿のショッピングエリア(2020年5月8日、写真:ZUMA Press/アフロ)

 5月14日、政府は新型コロナウイルスについての緊急事態宣言を一部解除することを決定した。緊急事態宣言の効果があったのか、4月中旬を境に新型コロナウイルスの新規患者数は減少傾向を示し、感染はいっとき落ち着いてきたようにも見える。緊急事態宣言の一部解除を前に、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議メンバーであり、コロナ専門家有志の会のメンバーとしても発信活動を行っている医師で川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦氏に緊急インタビューを試みた。コロナ対策における韓国・台湾と日本との違い、検査の最新状況、感染者の社会復帰支援などについて話を聞いた。(新村直子:医療健康ジャーナリスト)

韓国、台湾で生かされたSARSとMERSの経験

──新型コロナへの対応について、PCR検査を徹底した韓国や、ITを駆使した対策を採り感染を早期に封じ込めた台湾に注目が集まりました。韓国と台湾は、なぜそういう対応ができたのでしょうか。

岡部信彦氏(以下、敬称略) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発生に至るまでに振り返っておきたい感染症があります。2003年に世界的に流行した「重症急性呼吸器症候群(SARS)」と2012年に初めて確認された「中東呼吸器症候群(MERS)」です。

 SARSは、SARSコロナウイルスが原因の呼吸器感染症でした。2002年11月、中国広東省で非定型性肺炎の患者が報告され、アジアやカナダを中心に感染が拡大。2003年7月に世界保健機関(WHO)が終息宣言を出すまで、32の地域と国で8000人を超える症例が報告され、致死率は10%でした(注1)。

(注1)国立感染症研究所(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/414-sars-intro.html

 生きた動物を売買する市場や料理店で扱われていたハクビシン(ジャコウネコ科)がSARSコロナウイルスの発生源だったことは、わりと早く特定できました。SARSは飛沫感染が中心ですが、同じ飛沫感染の季節性インフルエンザと比較しても、人から人への感染力はそれほど強くはありませんでした。2004年以降は症例の報告がなく、SARSはウイルスとしても見つからなくなり、消え去ってしまいました。

 SARSが発生した時、台湾では2003年2月から7月にかけて感染者が674人確認され、大規模な院内感染が相次ぎました。日本では感染者が見つからず、実質的には被害はありませんでした。

 もう1つのMERSも、MERSコロナウイルスが原因の感染症です。ヒトコブラクダがコロナウイルスを持っており、これを起源としてMERSコロナウイルスが発生し、ラクダとの濃厚接触が感染リスクになる、と考えられるようになりました。ラクダは中東の人々にとっては身近な動物であり、日常生活に欠かせない存在。そのため、このウイルスは中東で居座ってしまいました。発生数はそれほど多くはなくこれまでに2500例程度ですが、致死率は37%と非常に高いものです。

 アジアでは、MERSはあまり多くは発生しなかった中、唯一流行したのが韓国でした。2015年、中東に滞在した男性が帰国後に発熱し、その後にMERSと診断されました。ドクターショッピング(注:次々に複数の医療機関を訪れ受診してもらうこと)などにより、2次感染、3次感染が広がり、5~7月にかけて186例発生し、そのうち死亡が36例でした。