新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、リモートワーク(テレワーク)や在宅勤務を推進する企業が増えていますが、従来とは異なる働き方やマネジメントスタイルに戸惑う方も少なくないと思います。既にビデオ会議などのツール活用法や、コミュニケーションを円滑化するためのルール・習慣づくりなど、方法論としての有益なアドバイスはあふれていますが、そもそもリモートワークの成否をどのように評価すべきなのでしょうか?

 リモートワークの導入効果については、メリット・デメリットを含めて、世界中で数多くの調査が存在します。結果をまとめると、概ね下図のようになります。

 いくつか具体例も見てみましょう。Global Workplace Analyticsの調査結果によると、アメリカの小売業・テレコム・化学メーカーなどで、15~45%の生産性向上が認められています。また1万6,000人の従業員を抱える中国の旅行代理店では、従業員満足度が向上し、離職率を半分にすることに成功しました。日本でも2019年8月に日本マイクロソフトが実施したワークライフチョイス・チャレンジでは、人財交流(ネットワーク数)が前年同月比で10%活性化しただけでなく、印刷枚数や電力消費量などの間接コストの削減にも成功しています(それぞれ59%、23%)。ちなみに、リモートワークを「Work from Home(在宅勤務)」と「Work from Anywhere(どこからでも勤務)」に分けて比較したケースとして、アメリカの特許商標庁では「どこからでも勤務」を選んだ従業員の方が生産性は4.4%増加し、加えてリモート会議に十分なITインフラを導入することで、更に3%改善することがわかりました。

 他方で、リモートワークには負の側面もあり、なかには中止に至った事例もあります。2013年にアメリカのYahoo! は「業務のスピードや質を担保するため」といってリモートワークの全面禁止を宣言し、シリコンバレーの他のIT企業もこれに追随したことがありました(現在ほどリモート会議システムが発達していなかったことも一因でしょう)。また、数十年前からリモートワークのパイオニアと呼ばれていたIBMは、四半期業績が20回連続で右肩下がりになった事態を受け、2017年に「5,000名の技術職を、固定の職場に戻す」と発表しました。競争環境が激化にともない、アジャイル型の開発スタイルに順応することが余儀なくされたなかで、リモートワークではかえってコミュニケーションコストが負荷になると判断されたためだといわれています。そして、2020年の1月末から早々に全従業員の9割を在宅勤務としたGMOグループも、2月末時点で業績影響は「ほぼない」とし、リモートワークの従業員満足度を聞いたアンケート結果では約9割がポジティブ(とても良かった/良かった)に捉えている一方、事務系といった一部の職種では約4人に1人がネガティブ(とても悪かった/悪かった)と回答していました。既にリモートワークを推進してきた他のIT企業の経営者からも、「身近な相談相手がいなくなったことで、メンタル面での不調を訴える従業員が増えている」と聞きます。

【参考】
Global Workplace Analytics:Costs And Benefits(英文)
Nicholas Bloom:DOES WORKING FROM HOME WORK? EVIDENCE FROM A CHINESE EXPERIMENT(英文、PDF)
日本マイクロソフト:「週勤4日&週休3日」を柱とする自社実践プロジェクト「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」の効果測定結果を公開
Harvard Business Review:Is It Time to Let Employees Work from Anywhere?(英文)
All Things:“Physically Together”: Here’s the Internal Yahoo No-Work-From-Home Memo for Remote Workers and Maybe More(英文)
The Atlantic:When Working From Home Doesn’t Work(英文)