またマニラ首都圏に隣接するカビテ市では、3月22日から23日にかけては外出禁止令に違反した市民など508人がカビテ警察に逮捕される事態も起きている。
このように「都市封鎖」による治安の悪化や違反者が続出することが、実はジョコ・ウィドド大統領がジャカルタの封鎖に躊躇している最大の原因と見られている。
鍵はインドネシア人の遵法精神
フィリピンの例が示すように、「都市封鎖」の正否については人々のコンプライアンス(法令順守)、つまり遵法精神が食糧・医療などのライフラインの確保と同様に重要なカギを握る。
人口約1000万都市とされるジャカルタ首都圏を封鎖した場合、その日暮らしで生計をたてる貧困層、低所得労働者、さらに失業者などが「生活物資」や「食料品」の不足を理由に商店襲撃や略奪といった行為に出て、それが暴動などの社会不安に発展する可能性が高いとみられている。
在留日本人の間からも日に日に生活環境が狭められている現状で、「このまま市民の不満がうっ積し続け、いつか爆発するような事態になるのではないかと心配だ」と治安悪化を懸念する声が高まっている。
もう一つの懸念はインドネシア人特有の集団心理にあるとの指摘がある。英語の「amokあるいはamuck=アモック」という単語は「暴れる」との意味を持つ。これはインドネシア語、マレー語の「amuk=暴動、怒り狂う様子、逆上状態」が語源になったとの説がある。
一人ひとりのインドネシア人、特に多数派のジャワ人は、普段は穏やかで物事を荒げない調和と妥協を重んじる性格である。しかし群衆として抗議やデモなどの団体行動となると、一種の集団心理から小さなきっかけからでも「手が付けられないほど凶暴になり暴れる」ともよく言われる。
1998年のジャカルタ暴動やその後に各地で散発した反政府デモや集会、民族差別に根差す抗議活動など、インドネシアの社会はしばしば統制不能に陥り騒乱状態になることがある。その背景の説明として、この「アモック」という、インドネシア人の一種独特な精神状態を表現する言葉が使われることが多い。
群衆の中に紛れ込んだ治安部隊要員や金銭で雇われた不良分子などが意図的に起爆剤となって、インドネシア人の特別な心理を悪用して、騒乱状態を創出するケースもある。
遵法精神の裏側に潜む、こうした特徴的な心理の存在も、ジャワ人であるジョコ・ウィドド大統領が「首都封鎖」をためらう一因と見られているのだ。