4月10日に大統領選挙が行われたペルー。候補者が乱立する中、左派軍人オジャンタ・ウマラ元陸軍中佐と日系人ケイコ・フジモリ国会議員が6月の決選投票に進むことになった。

国民の半数以上が投票したくない候補者の決選投票

ペルーの首都、リマの大統領府

 フジモリ候補は、1990年の軍特殊部隊による民間人殺害容疑で服役中のアルベルト・フジモリ元大統領の長女だ。

 一方のウマラ候補にしても、今回も立候補し4位に終わったアレハンドロ・トレド元大統領が在任していた頃、その退陣を求めて警官を人質に立てこもり逮捕された弟アンタウロ・ウマラ元少佐が服役中の身である。

 世論調査では半数以上に「投票したくない候補」に挙げられていた両候補だけに、国民にとっては選びようのない二択となってしまった、と嘆いているのが、昨年(2010年)、ノーベル文学賞を受賞した作家マリオ・バルガス・リョサ。

 チリのパブロ・ネルーダ、コロンビアのガブリエル・ガルシア・マルケスと並ぶラテンアメリカ文学の巨人である。

 その姪であるクラウディア・リョサが監督した『悲しみのミルク』(2008)が今劇場公開されている。

テロ対策に力を入れすぎた? フジモリ元大統領

『アルベルト・フジモリ、テロと闘う』(中公新書ラクレ、2002年)

 背景にあるのは、1980年代から90年代にかけて、その冷酷な手口から「南米のポル・ポト」とも呼ばれ、ペルー社会を恐怖に陥れていた極左武装組織「センデロ・ルミノソ」による無差別テロ。

 実は、そんな混乱の1990年に行われた大統領選挙に、マリオ・バルガス・リョサ自身がネオリベラリズム政策を掲げて出馬、当初第1位票を得たものの、決選投票で当時全く無名だったアルベルト・フジモリに敗退したという経緯もある。

 のちに「アルベルト・フジモリ、テロと闘う」なる著作が出版されるほどに、大統領となったフジモリがテロ対策に力を入れたため、治安は一気に好転したが、その強権的な手法には非難の声も多かった。

 その象徴とも言えるのが、1996年12月に起きた日本大使公邸占拠事件。4カ月後にようやく解決を見た時、投降してきた無抵抗な犯人を無慈悲にも殺害した、との疑いも出ているのである。