それでは以下、「協力」「武力紛争に至らない競争」「武力紛争」というそれぞれの概念について見ていく。

①「協力」

 本文書は、米統合参謀本部が作成した米軍のドクトリン策定に資する頭揃えのための文書なので、外交や経済政策との連携を説きつつも、記述の主体は、軍が何をすべきかである。

「協力」の分野で軍が担う役割としては、友好国との間の、安全保障協力活動、共同訓練・演習、情報共有、人的交流、その他の平和的な軍事関与を挙げているほか、「武力紛争」や「競争」に対処するために多国間で共同作戦を行うことも含めている。

 そして、中国に対して、南シナ海で航行の自由作戦で圧力をかけつつ、海賊対処においては協力していることを例示して、同一の相手と「競争」しつつ、分野によって「協力」することも日常になると説く。

「武力紛争」においても、友好国と「協力」するのはもちろん、その中で、特に終結局面において、関係する様々なアクターとの「協力」を忘れてはならないことに触れ、今まで軍事的な計画策定時に、この側面が軽視されていたことに警鐘を鳴らしているのである。

②「武力紛争に至らない競争」

「協力」と「武力紛争」の間に、「武力紛争に至らない競争」という概念を導入したことが、まさに「競争継続」コンセプトの肝だと言えるのだが、軍は、この「武力紛争に至らない競争」において、いかなる役割を果たすのだろうか。

 本文書はまず、敵対勢力がこの「競争」で用いてくる手段として、外交・経済活動、政権転覆活動、諜報活動、サイバー空間での活動、情報工作、その他「武力紛争」を避けつつ目標を達成するあらゆる手段を挙げた上で、場合によっては、代理勢力などが暴力を行使することまでも想定する。

 そして、これに対処するための米軍の役割として、部隊の前方配置、適時適切なプレゼンス、演習の実施、友好国などとの情報共有、危機対処の態勢準備、サイバー空間等での活動など、競争相手の意思を挫くための様々な非暴力的軍事活動を挙げている。

 南シナ海での航行の自由作戦が、その好例であろう。

 すなわち、軍事力を直接的な武力行使の手段として使うのではなく、競争相手に様々なシグナルを送ることにより、双方の認識という仮想の空間の中で、こちらが優勢を得て、競争を有利に進めるというイメージである。

 そのためには、そもそも今対象とする競争相手は誰で、何が「競争」の焦点になっているのかを的確に認識した上で、こちら側が何をすれば、相手側の意思にどのような効果を及ぼすことができるかを綿密に計算して動かなくてはならない。

 現実には、その同じ相手と、他地域では直接的な「武力紛争」を戦っていたり、他の分野では「協力」していたりする中で行われるため、この計算はより複雑となる。

 これらを踏まえた上で、「競争」に資する軍の活動は、目先の局面に拘泥せず、長期的視点に基づいて行われることが重要であるとするとともに、その一方で時々刻々と変化する戦略環境に柔軟に対応する必要があると説くのである。