(文:杉田弘毅)
この人をどう形容すべきか悩む。
あるべき米外交を貫こうとして敗北したのか、それともお払い箱になった時代遅れの頑固な戦争屋なのか。
ジョン・ボルトン前国家安全保障問題担当大統領補佐官。
ドナルド・トランプ米大統領の娘のイバンカ補佐官や、その夫のジャレッド・クシュナー上級顧問が代表するスタイリッシュな今のホワイトハウスで、野暮ったい口髭に眼鏡、仏頂面で佇む姿は、半世紀前のワシントンの遺物のように見えた。
その補佐官職だが、昨年9月、在任わずか1年半で解任された。
ロナルド・レーガン政権時代から約40年間にわたり、米外交・安全保障政策サークルにいたボルトンからすれば、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と3回も笑って会談するトランプ大統領には付き合いきれなかったのだろう。
なぜ今「反トランプ」なのか
さて、ボルトンのウクライナ疑惑をめぐる回顧録『それが起きた部屋』(“The Room Where It Happened”=3月17日刊行予定、未邦訳)である。
中でももっとも注目を集めたのは、トランプ大統領が執務室での自分との会話で、“ジョー・バイデン前副大統領親子への捜査が、ウクライナへの軍事援助再開の条件だった”と明言した、という内容だ。だが、大統領弾劾裁判でのボルトンの召喚は実現せず、その具体的な内容が宣誓の上で直接語られることはなかった。
トランプ大統領は、汚職対策の強化を求めるためにウクライナへの軍事援助を凍結したのであり、バイデン捜査とは無関係だ、と主張してきた。外交を自分の再選選挙には結びつけていないという論法だ。
だが、ボルトン回顧録はその主張を崩す。だから大統領は、「ボルトン氏は自分の本を売るために嘘をついている」と口汚くののしり、「大量の機密情報」を理由に出版を禁じると圧力をかけた。
もっとも、ボルトンの主張の方が真実に近そうだ。
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