「鉄の女」率いる下院民主党
党派対立が再燃した理由は、複合的なものと見たほうがよい。先ず、重要法案目白押しのタイトな議会スケジュールだ。ビッグ3救済に加え、金融安定化対策という難題が控えている。ガイトナー財務長官の最大1兆ドルまで投じる計画は具体性を欠き、拙速批判を浴びた。ニューヨーク株式市場では失望売りが殺到、ダウ平均株価は8000ドル割れを起こした。オバマ大統領は金融安定化の発表を、あえて上院の景気対策法案の採決日にぶつけてきたが、裏目に出た格好だ。
もう1つは、民主党の議会リーダーが、まだまだ党派対立的という点にある。相変わらず、民主党のペロシ下院議長に対する風当たりは強い。少なくとも下院の景気対策法案審議で、「共和党への歩み寄りや対話の姿勢を見せていない」という批判はその通りだ。そもそも、ペロシという政治家に妥協は期待できず、オバマ大統領の「潜在的な敵」は与党・民主党内にも存在する。
選挙中から中道姿勢にシフトし、外交・安保政策ではアフガニスタン3万人増派を模索中のオバマ政権にとって、ペロシ下院議長の率いる民主党左派は反戦・リベラル派を抱え、下手に敵に回すと思わぬ場面で足をすくわれかねない。
議会の行き詰まりを見て、オバマ大統領は頭を切り替え、野党・共和党ではなく、米国民に直接アピールする策を取った。テレビのプライムタイムでは異例の公式記者会見を中継させ、日本の「失われた10年」を引き合いにしながら、「何もしなければ破局」に陥ると訴えた。
実際、米国民のオバマ人気は依然高く、65%近くの支持率を誇る。他方、議会に対しては3割程度しか支持がない。今回のような状況では、オバマ大統領は政治的資本(Political Capital)を使うしか、手がなかったのかもしれない。
大量落選、層薄い共和党穏健派
さらに、今回の上院票決「61対37」が物語るのは、わずか3人が賛成しただけという、共和党穏健派の層の薄さだ。2006年の中間選挙、2008年の議会選挙で共和党は議席を大幅に減らす一方、民主党が着実に増やしてきた。ブッシュ政権下のイラク戦争など保守政策が不人気の理由とされているが、皮肉なことに共和党で議席を失ったのは穏健派が目立つ。保守派の多くは逆風をはねのけ、議席を維持している。
結果を出せるか?〔AFPBB News〕
しかも、共和党のマケイン上院議員やマコネル院内総務らの敗戦の教訓は、「ブッシュ大統領がイラク戦争などで財政赤字を拡大したから」というもの。だからこそ、今回の景気対策法案については、減税は支持できても公共投資に妥協的な態度は取れなかったのだ。
オバマ大統領と同様、マコネル上院院内総務も日本の「失われた10年」を引き合いにしているが、結論はオバマ大統領と全く違う。上院審議では次のように主張した。「日本の失われた10年では、その景気刺激策は今我々が審議しているものと同じようなものだった。何度も何度も刺激策を行ったが、結局のところ、日本は景気回復できず、大きな財政赤字を築くだけだった」
マコネルの主張に一理あることは、日本人なら分かる。ただ、日本の場合は不良債権処理を先送りし、景気刺激だけを続けてきたため、結果を出せなかった。米国が景気刺激と同時に不良債権をきちんと処理すれば、日本のような失政は回避できるかもしれない。
オバマ政権の薄氷を踏むような議会運営も、結果を出せばむしろ高く評価されよう。逆に失敗すれば、批判の集中砲火を浴びてしまう。結果がすべて。今更ながら、政治は本当に難しい。

