GRヤリスがついに世界初公開された。意欲的なスポーツカーは、いかにトヨタのクルマづくりの哲学を変えたのか──。スポーツジャーナリスト・田邊雅之氏による試乗記と開発者へのインタビューをお届けする。

素人でも得られるドライビングプレジャー

 グォーーン、キュキュー、ズジャー、グォーーン……。

 都内近郊の某所。山間のサーキットに設けられたグラベル(非舗装)の周回コースを、真新しいスポーツカーが砂埃を上げながら駆け抜けていく。鮮やかな幾何学模様が施されたボディに大きくペイントされたのはGR-4の文字。東京オートサロン2020で世界初公開されたTOYOTA GAZOO Racing Company(TGR)の注目車両、GRヤリスのプロトタイプだ。

 この車両はWRC(世界ラリー選手権)に向けて投入されるマシンをベースにしたスポーツカーで、今夏には日本国内でも発売が予定されている。

 昨年、縁あって試乗する機会に恵まれたが、何よりも驚いたのはドライバリティ(扱いやすさ)の高さだった。高性能のエンジンを搭載しているにもかかわらず、自分のような素人でさえも意のままに操ることができる。

 アクセルを踏み、ブレーキングしながらコーナーに侵入していけば、当然のようにリア(後部車輪)は滑り出す。見よう見まねでカウンター(逆ハンドル)を当てれば、すぐにクルマの姿勢を立て直して、次のコーナーに向かっていくことができた。

 しかも挙動が安定しているため、ヒヤリとする瞬間は一度もない。気分はすっかりアイルトン・セナ……いやダカール・ラリーに参戦していたフェルナンド・アロンソだろうか。

 ハンドルを握りながら思い出したのは、免許を取り立ての頃、母と初めて一緒にドライブに出かけた時のことだった。ドライブといっても行き先は近くのスーパーマーケットだったし、母が乗っていたのはマニュアルの軽自動車である。