早期教育も、失敗を先回りして未然に防ぐことも、これからのAI時代には何の武器にもならない。では、一体なにが武器になるのか。人間にしかできないことは、あるのだろうか。黎明期から研究開発に携わり、AIに寄り添ってきた著者が、AIとどのように共存していくべきかを“マニアック”に語る。(JBpress)
※本稿は『人間のトリセツ――人工知能への手紙』(黒川伊保子著、ちくま新書)より一部抜粋・編集したものです。
人間は失敗から学習する
現代人は、失敗を恐れすぎている。
子どもが歩き出せば、転ばないように心を配るのは、いつの時代にも変わらぬ親心だが、今の親たちは、わずか1歳から英語教育(将来、英語でつまずかないように)、小学校に入れる前には、スイミング、漢字も数も足し算も教えなきゃと、なんだか思いつめている。
もちろん、それが楽しいのならいいが、ストレスなら、立ち止まってみたらどうだろう。
学校で習うことには、学校で習えばいいじゃない。学校は、知識をひけらかすところじゃない。知らないことに出会うエキサイティング・ワールドだ。知ってることを、ただ確かめに行くのなら、授業なんて、退屈でしょうがないでしょう。
何年か前、幼児向けの、倒してもこぼれないコップを見た。コップを倒して、ミルクが広がる失敗さえも、今の子どもたちは許してもらっていないのか。私は、胸が苦しくなってしまった。
これじゃ、子育てするほうもされるほうも、つらくてしょうがないのでは?
大人になっても、失敗は、脳の糧だ。28歳までの「定型の作業をがむしゃらにやる」、30代の「未知の事象に挑戦し、失敗して泣く」はそれぞれ、脳の生涯の学習効果を高めるための大事なポイント。
なのに、家庭にも職場にも、定型作業を引き受け、あらゆる失敗を未然に防ぐAIがやってくる?
そりゃ、人類は、学習機会を逸してしまうでしょう。