米国・ワシントンで貿易協議に臨んだ中国の劉鶴副首相(左)とスティーブン・ムニューシン米財務長官(2019年10月11日、写真:AP/アフロ)

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 米中対立の影響が全世界に広がるなか、米国学界最大のアジア研究機関が、現在の対中関税戦争を一時休戦して“選別的”に中国との関係を縮小していくという「部分的な不関与」を対中新戦略として提案した。

 提案には、米国が日本との貿易協力関係を拡大し、やがては環太平洋パートナーシップ(TPP)に戻るという選択肢も掲げていた。提案者は超党派だが、学者だけでなく大物の元官僚や政治家も含まれており、トランプ政権に影響を及ぼすことも考えられる。

中国に対して「部分的な不関与」戦略を

 米国のアジア研究学会では最大規模の「全米アジア研究部会(NBR)」は11月上旬、「部分的な不関与=中国との経済競争への米国の新戦略」と題する政策提言報告書を発表した。

 この政策提言は、NBRのなかに組織された「米中戦略の経済的側面の変質についての調査班」の合計13人の専門家により、1年ほどの研究と調査を経てまとめられた。

 NBRが新戦略を打ち出した目的は、米国の新たな対中経済政策の形成にある。作業は、13人の同調査班メンバーのうち共和党の元下院議員のチャールズ・ボウスタニ氏とプリンストン大学教授のアーロン・フリードバーグ氏が共同議長となって進めた。両氏とも議会や政府の要職を務め、対中政策形成に長年関与してきた。

 トランプ政権は中国を米国の基本的国益と価値観を侵す有害な存在とみなして、対決していく姿勢を明らかにしている。今回、NBRが発表した報告書は、トランプ政権のそうした中国との対決姿勢に沿うことを前提としている。