流創株式会社 代表取締役 経営コンサルタント/作家 前田 康二郎
以前、ある経営者の方が「土日は、社員から連絡が来ても絶対に対応しないんです」と答えているシーンをテレビで拝見しました。その方の著書や記事をそれまで見ていた私の印象では、「仕事大好き人間」と思っていましたので、どうしてこのようなことを「わざわざ」テレビで言うのだろう、と一瞬思ったのですが、すぐ「なるほど」と理由がわかりました。
「経営者が社員からの連絡に土日は対応しない」ということは、見方を変えると、「土日は社長から社員に仕事の連絡は来ない」という意味になります。つまり、学生や転職を考えている方達がこのテレビを見ていたら「この会社は、少なくとも土日に社長から連絡がくることはない会社だから行ってみたい」、「ワークライフバランスがしっかりしていそうな会社だから応募してみようかな」という気持ちになることでしょう。人手不足の折、さすがよく考えていらっしゃるなと思いました。
必要なのは「実務に支障がない施策」の立案
ワークライフバランスという言葉は、私自身は、人によって解釈の仕方が異なる、非常に「ゆらぎの大きい言葉」だと考えています。
これまで多くの方と仕事をご一緒して感じるのは、その人の考え方や労働環境によって二つのタイプに分かれるということです。それは「仕事そのものが基本的に好きな人、あるいは好きなことが仕事になっている人」と「そうでない人」です。前者のケースは働き過ぎにならないように、また後者のケースはなるべく自分の意思で仕事の裁量を決めてもらう、という環境整備くらいが、現実的に総務人事部門が「業務として」できるケアの限界ではないでしょうか。それ以上に踏み込んだ「人それぞれの仕事の価値観」については、簡単に他人が変えられるものではない、と私は多くのケースを見てきて思います。
ワークライフバランスは、「物理的な労働時間の問題」、「仕事に対する考え方の違い」、「それぞれの立場や役職」、「抱える家庭環境」など、さまざまな基準軸があります。皆がそれぞれ働きやすい環境にする、という取り組み自体はとてもいいことだと思いますが、単に平日と休日、残業時間などを区分けして、はみ出してしまう実務のことは皆で考えてなんとかしてください、と会社が社員を突き放したり、あるいは社員が会社の利益を無視して自分の機嫌や都合に任せて仕事をしたりしていい、ということではなく、実務的に支障がない施策を打たなければ会社の生産性は落ち、利益も落ちます。利益が落ちればまわりまわって結局は給料面など皆に不利益な職場環境になってしまいます。