さて、ここで、西川社長に日産ゴーン事件と類似の犯罪事実が出てきた。新たな犯罪事実ではあるが、だからと言って特捜検察が西川社長を逮捕できない理由は、昨年の有価証券報告書虚偽記載事件で西川社長を逮捕できなかった理由と変わらない。今この期に及んで西川社長逮捕すれば、逮捕事由の如何にかかわらず西川社長は全面否認をせざるを得ない。西川社長は、対検察全面恭順による今までの供述をすべて翻し、自らの無実を主張する以外に道はなくなるのである。日産ゴーン事件の有罪立証の骨格は崩壊するであろう。そんなことを特捜検察がさせる訳がない。

株主代表訴訟の相被告

 西川社長の逮捕がないことを論証したが、このことは、今回の西川社長の役員報酬不正受給事件が日産ゴーン事件に影響しないことを意味するものではない。

 日産の取締役会は、西川社長に対して、

「自己の報酬が不正な手法により増額されたことを認識しておらず、またケリーらに対してそのような指示ないし依頼をした事実もないことから、不正行為に関与したとみる余地はない」

 などと不可解な事実認定を行って、

「そのため、当社は、これらの役員らに対して責任追及をすることは予定していない」

 としている。日産のこの判断は日本社会の常識とは大きくずれている。

 もとより西川社長は、もともとゴーン会長の忠実な腹心として日産のコストカットに手腕を発揮してきたものが、日産を取り巻く政治力学が変化するや機敏に風向きの変化を嗅ぎつけ、隠密裏にゴーン元会長を特捜検察に売った裏切りの人である。強い者には弱く、弱い者には徹底的に強くなれる人で、このようなタイプの人が判官贔屓の日本人社会から好まれることはない。西川社長は、「暴利を貪る外国人経営者の追放」という錦の御旗を立てて自らの裏切りを正当化していたが、今回のSAR報酬の不正受給により、西川社長こそが権力の笠の下で不正報酬を貪る悪徳経営者であることがばれてしまった。日産からの責任追及はなくとも、西川社長が株主代表訴訟で訴えられることは必至であろう。

 ということは、西川社長は、予想される日産の株主代表訴訟における法廷において、何とゴーン元会長と並んで被告人席に座るのである。

 この裁判における西川社長の主張は、

「自分が日産を私物化していたことはなく、増額されたSAR報酬は正当なもので、少なくともそれが不正なものであるとは知らなかった」

 というものでなければならない。これはゴーン元会長の主張と同じで、この人が今まで特捜検察に迎合して供述した検面調書とは正反対のものとなる。日産ゴーン事件において、ゴーン元会長の弁護団は、期せずして、敵性証人の寝返りという僥倖を得ることになるであろう。