恣意的立件の成れの果て
日産ゴーン事件では、役員報酬に関する有価証券報告書虚偽記載罪、並びに、サウジアラビアルートとオマーンルートの特別背任罪がゴーン元会長を被告人としてそれぞれ立件されている。そして、これらの起訴事実を支える検察側有罪証拠は、日産側反ゴーン一派の提出する日産側内部資料と反ゴーン一派関係者の供述だけから構成されている。日産ゴーン事件は、日産側反ゴーン一派の特捜検察に対する盲目的恭順により際どく成立しているのである。
ゴーン元会長は金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載罪)容疑で2回逮捕されている。1回目の逮捕(2018年11月19日)は、2011年3月期から2015年3月期までの5事業年度の役員報酬50億円の不記載容疑であり、2回目の逮捕(2018年12月10日)は、2016年3月期から2018年3月期までの3事業年度の役員報酬42億円の不記載容疑である。2つの容疑は対象期間と金額が違うだけで犯罪構成要件に変わりはないが、ゴーン元会長の被疑事実に対する法的立場はまるで違う。2016年3月期から2018年3月期までの3事業年度の日産自動車の有価証券報告書には、代表者の役職氏名として、「取締役社長 西川廣人」と記載されているからである。
もとより、有価証券報告書虚偽記載罪は、「有価証券報告書に記載された重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した者」に対して刑罰(金融商品取引法第197条第1項第1号)が定められている。ここで、2011年3月期から2015年3月期までの5事業年度における日産自動車の代表者はゴーン元会長なので、ゴーン元会長が有価証券報告書の提出義務者代表として虚偽記載容疑で逮捕されるのは金融商品取引法の規定に合っている。しかし、2016年3月期から2018年3月期までの3事業年度は違う。
本件2回目の有価証券報告書虚偽記載罪が成立するとすれば、その主犯は西川廣人現社長になるはずで、ゴーン元会長はその共犯者あるいは幇助犯ということになる。特捜検察は、今回第2回目の逮捕において、正犯容疑者を逮捕することなく共犯あるいは幇助犯容疑者だけを逮捕したのである。
西川廣人現社長は本件司法取引の対象者ではないが、本件の発端となった内部告発を支える日産自動車内反ゴーン一派の中心人物である。特捜検察は、ゴーン元会長に対する逮捕容疑の証拠のほぼ全てを日産自動車からの内部情報に依存している。すなわち、特捜検察と西川廣人現社長は共存関係にあり、だから、本件第2回目の虚偽記載における主犯が西川現社長であるとしても、だからといって、西川現社長を逮捕することができない。特捜検察は、一民間自動車会社の内紛に刑事司法をもって介入したばかりに、秋霜烈日たるべき法の適用を自ら歪めてしまった。