イノベーションにつながる来場型体感のブレスト

 もともと働き方改革関連法は「イノベーションによる生産性向上」を目的として成立し施行されている。労働時間を短縮し、多様な働き方を認めたうえで企業を運営していくためには、技術革新や経営方法論のパラダイムシフトによって生産性を向上させることが不可欠。そうしたムーブメントを誘発するのが働き方改革関連法の狙いだ。また労働時間を削減できれば、その時間を新規事業の立ち上げなどイノベーションに回すことが可能になる、ともいえるだろう。

 まさに、そうした流れの中で生まれたものこそ「CHRO向け働き方改革ブレインストーミング会議/来場型体感サービス」なのだ。

 このサービスへの参加者が通されるのは、テーブルの上にタマゴ型のマイクとPCが設置された1つの会議室。部屋の一角には大型のディスプレイが据えられている。参加者はまず、日立製作所の社員がファシリテーターとなって実施するプレゼンテーションに耳を傾けることになる。披露されるのは、前述したような日立の取り組み(サーベイ結果と行動データの分析、それに基づく各施策)、およびその成果だ。そして参加者は「自分の会社ならどのような施策が可能か?」などと自由に話し合う=ブレインストーミング会議をおこなう、というのがおおよその手順だ。

 タマゴ型マイクは周囲8方向の声を認識して拾い上げることが可能で、ピックアップされた参加者たちの発言はPC内のアプリケーションによって文字化され、リアルタイムにディスプレイへと表示されていく。さらに、この会議のポイントになるとアプリケーションが判断した発言は、画面右側にある「System Suggestion」という部分に抜き出されることになる。実機を使って日立製作所サービスプラットフォーム事業本部の園田英史氏が実演すると「最後に」や「アクション」といった言葉の入った文章が抽出されていた。

「われわれが日々取り組んでいる働き方改革を聞いていただくだけでも、参加者の方々の新たな発想につながるはずです」と語るのは、このサービスを開発した日立製作所サービスプラットフォーム事業本部の饗庭健司氏だ。

「また『suggestion』の部分に自分の発言が表示されると、なんだか承認されたような気になるのです。そうすると、その言葉をキッカケとしてさらに深く考えを深めて行くことが可能となり、新しいものを生み出すチャンスも広がります。そうした、参加者の皆さんのイノベーションやチャレンジへとつながる、ブレインストーミング会議の高度化サービスだといえるでしょう」(饗庭氏)

 マイクの性能から、この会議の参加者は「5~6人がベスト」とのこと。まずは利用を希望する顧客企業のCHRO(最高人事責任者)など幹部クラスの社員に無償で体験(1回あたり2時間)してもらい、2回目以降は一般社員などにも対象を広げて有償で提供、という形を想定しているという。

 面白いのは「顧客の会議室などに出向いて提供することはしない」という点。“来場型”と銘打っている通り、利用希望企業は東京都国分寺市にある日立製作所 中央研究所の『協創の森』まで出向く必要がある。

「何しろ『移動が多い人は生産性が高い』わけですから、ここまで来ていただくことでも働き方改革に対する意識が変わるのではないでしょうか」というのが饗庭さんの弁だ。

 ちなみにタマゴ型マイクや音声認識・文字化は、もともとロボットと人間の共生(これもまた働き方改革を推進するにあたって重要視されている課題だ)を目指して同事業本部が研究開発を進めていた技術。そうしたツールに触れながら、ピープル・アナリティクスによる働き方改革の成功事例を知り、「移動が多い人は生産性が高い」という事象を身をもって経験し、働き方改革について話し合う……。幾重にも張り巡らされた“働き方改革”を参加者が体感できる場。それがこの「CHRO向け働き方改革ブレインストーミング会議/来場型体感サービス」だといえるだろう。

 こうした事業こそ、真のイノベーションは生み出し、働き方改革を加速させるのかも知れない。

取材・文/谷川善久、撮影/武田昌盛

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「CHRO向け 働き方改革ブレインストーミング会議/来場型体感サービス」