北朝鮮が発射した短距離ミサイルを見る北朝鮮の金正恩委員長(8月1日、写真AP/アフロ)

撃ち落せない北朝鮮イスカンデルミサイル

 米国のドナルド・トランプ大統領は、北朝鮮が5月以降短距離弾道ミサイルを発射したことについて、「腹を立ててはいない」「一部の者達を不安にさせたが、私は違う」と発言している。

 トランプ流の交渉術で、米国に向かわないものであればよいという意図だろう。だが、日米の軍事関係者は、このミサイルを短距離だからといって、侮ってはいけないとみている。

 北朝鮮は、火星12・14・15号ミサイルのように大型化し射程を伸ばしていた。そうであっても日米はミサイル防衛で対応が可能だ。

 だが、今回北朝鮮が発射したミサイルは現段階で日本本土に届かないものの、このミサイルの飛翔技術開発の成功は、これまで米日で進めてきたミサイル防衛を困難にさせ、撃ち漏らす危険性が極めて高まったことを認識しなければならない。

 北朝鮮は、今年の5月4日、9日、7月25日の3回、ロシア製の「イスカンデル(9K720)」短距離弾道ミサイルと全く同型のもの(以後、北朝鮮版イスカンデルまたは北のイスカンデルと呼称)を発射した。

 特に注目したいのは、5月9日の2発と7月25日に発射された2発のミサイルだ。以下、北朝鮮版イスカンデルの弾道ミサイルの特性とミサイル撃破の困難性を紹介する。

1.どのように飛翔しているのか

 北のイスカンデルは、5月9日のものは、高度50キロで飛距離が420キロ、7月25日のものは高度50キロで飛距離が600キロであった。

 同じ短距離弾道ミサイルのスカッドCの標準軌道の場合、飛距離が約600キロの場合は高度が約200キロ、約420キロの場合は高度が約120~130キロである。

 つまり、今回発射された北のイスカンデルの飛翔高度は、在来型の短距離弾道ミサイルスカッドよりも、約4分の1~3分の1の高度であり、低高度軌道(ディプレスド軌道)であったと言える。

 北朝鮮はこれまで、標準軌道とロフティッド軌道の射撃を行ってきたが、ディプレスド軌道の射撃は、今回の北のイスカンデルが初めてであった。

 北朝鮮は、7月25日に発射されたミサイルを「新型戦術誘導兵器システム」と呼称し、「低高度滑空跳躍型飛行軌道の特性」があると発表している。

 金正恩委員長が指導している映像の1枚には、飛翔経路らしき赤字の線が見える。ミサイルが、低高度軌道で、いったん最高点まで上昇して、その後落下し、さらに上昇していることが描いてある。

 また、韓国軍も下降段階で再上昇するイスカンデルに似た飛行特性を確認している。韓国軍合同参謀本部は、25日のミサイル発射の1発を、高度50キロで、飛翔距離が430キロと評価したが、後日600キロと訂正した。

 評価を誤った原因は、北朝鮮のミサイルが落下を始めて、その後の落下の予測値から評価したためだろう。当然考えられることだ。

 だが、実際は、いったん落下したものが上昇したか、予想コースに落下せずに飛距離が伸びたものと考えられる。つまり、金正恩の前にあるテレビ画像の飛翔軌跡と韓国軍が後日確認し修正したことは概ね一致している。

北のイスカンデルとスカッドの飛翔軌道比較(イメージ)

列挙しているミサイルの標準軌道、ディプレスド軌道のイメージを紹介するために、上昇時の角度補正および終末段階の大気の抵抗による角度変更は無視している(筆者作成)