(写真はイメージ)

(加谷 珪一:経済評論家)

 吉本興業をめぐる一連の問題をめぐり「経営陣が刷新されなければ、吉本興業を辞める」と宣言していた、お笑いコンビ「極楽とんぼ」の加藤浩次氏は7月23日夜、同社の大崎洋会長に直談判に及んだ。ところが翌日「合致点がなかなか見つからなかった」として、退社については一旦、保留する意向を明らかにした。

 自身が(吉本興業のタレントとして出演している)テレビ番組の中で、事務所の経営陣を直接的に批判し、「(退所の)意思は固い」と宣言しておきながら、一転して保留するという事態になったことついては、当然のことながら賛否両論が出ている。

 最終的に加藤氏が退所を決断するのかは分からないが、吉本に所属するタレントや芸人を企業の社員と見立てた場合、加藤氏の言動はそれほど驚くような話ではない。「会社を辞める」と公言する社員は、実はそう簡単には会社を辞めないというのは人事の世界では常識的なことだからである。一方、本当に会社を辞めてしまう人は、退社について一切、口にせず、すべての準備を整えた上で、突如、会社に辞職届を出してしまうケースが多い。

「最近の若者は」という話のほとんどはウソ

 このところ人手不足が深刻になっていることから、企業にとって退職者が出ることは頭の痛い問題である。実際に毎年、入社シーズンになると「最近の新人はすぐに会社を辞めてしまう」といった嘆きの声を耳にする。しかし、それは単なる思い込みであることがほとんどだ。

 厚生労働省の調査によると、大卒新入社員が3年以内に会社を辞める割合は約32%だが、この数字は1980年代から大きく変わっていない。バブル崩壊直後には少し離職率が下がったものの、その後は30%台前半で安定的に推移している。