温家宝首相は3月14日に開かれた全人代の記者会見で、「日本の要望に応じてどんな支援もする用意がある」と最大限の支援をする態度を表明した。そして、胡錦濤国家主席は自ら日本大使館に出向き、犠牲者に哀悼の意を表するための記帳を行った。これは中国では異例なことである。

 日中関係は国交回復して以来の三十数年間、様々な紆余曲折があった。とりわけ昨今の尖閣諸島の問題をきっかけに双方の国民感情が悪化し、両国関係は最悪の状態に陥った。

 しかし、日中双方ともこういう状態から脱却したいはずである。とりわけ中国政府は対日関係の改善を模索しており、今回の震災はその契機となりそうだ。

日中関係の構築は未来志向で

 長い間、かつての不幸な歴史が、日中関係のさらなる発展を妨げてきた。それは、戦争に対する歴史認識の違いに加え、地域のリーダーシップを巡る争い、イデオロギーの違いに起因するところも大きい。

 しかし、歴史の負の遺産を清算するだけでは、新たな日中関係を構築することはできない。また、地域のリーダーシップを争うよりも、日中の協力が求められている。さらに、イデオロギーの違いは現実に存在するものであり、自国民の合意がなければ、外圧だけではなかなかそれは変わらない。

 こうした前提を踏まえ、今後の日中関係を構築するには、未来志向が重要である。具体的には、地域の平和と繁栄を構築するビジョンを共有することが大前提となる。

 鳩山由紀夫・前総理は東アジアの地域協力の枠組みとして「東アジア共同体」の構築を提案した。このような地域協力のビジョンの提案は非常に重要だ。しかし、残念ながら、鳩山前総理が退陣してから「東アジア共同体」の構想は大きくトーンダウンし、菅直人政権は必ずしもそれを引き継いでいない。「東アジア共同体」に代わる新たな構想も打ち出しておらず、菅政権の外交方針は宙に浮いた状態にある。

 未来志向の日中関係を構築するもう1つのポイントは、明確なビジョンを定めた上で、それを実現する「ロードマップ」を提示することである。

 実は、日本と中国は、政治・外交関係こそ紆余曲折を経てきたが、経済関係は安定して発展してきた。それは主に日本企業の対中直接投資を軸に発展してきたものである。日本にとって、中国は最重要な貿易相手国になっている。同様に、中国にとっても日本は技術移転してくれる最重要な国であり、技術の源である。

 中国は「世界の工場」から「世界の市場」へ変身しつつある。日本にとって持続的な経済成長を目指すためにも、中国との関係を改善することは不可欠である。同様に、中国は産業構造が高度化する重要な段階にさしかかっており、それを実現するには日本企業との協力が必要である。