パソコンやスマホでUniposを立ち上げ、そこでピアボーナスを送り合うというUniposのシステムは、旧来のような上司からの一方向の人事評価とは異なり、上司や部下、同僚という全方位からの、気軽な評価になる。

 しかも、「称賛」や「感謝」「共感」というポジティブな評価中心になるので、従業員のモチベーション向上やチャレンジ意欲の喚起に非常に効果があるという。

「われわれの会社で使ってみてよかったのは、エンジニアがビジネス側の人を尊敬し、ビジネス側のメンバーもエンジニアのみんなが作って入れているから売れている、というマインドを強く持てるようになったことです。違う部門の人たちにも背中を任せられる感覚を得られている。そういう部分はこれからスタッフがさらに増えていっても残していきたいし、できればもっと強めていきたいんです」(同)

 Uniposのサービスは評判を呼び、導入実績はサービス提供開始から1年後には100社を超え、今年5月には240社を突破した。当初Uniposを積極的に導入したのはITベンチャーが多かったが、IT業界ではシステムエンジニアの離職率の高さ、人手不足が各社共通の悩みだった。Uniposは、その悩み解消にも大きく役立っているという。

「エンジニアの人に対するマネジメント側の評価は、ともすれば減点評価になりがちなんです。『なんでバグったの? なんでリリース遅れたの?』と厳しく評価される一方で、スケジュール通りにサービスがリリースできても『よかったよかった』で終わり。その頑張りがなかなか正当に評価されないんです。それが離職率の高さに結び付いている面があります。

 でもUniposがあれば、それまであまり目立たなかった隠れた頑張りを、同僚が称賛・感謝してあげられるし、それを社内に広めることができる。そうした承認の実感が得られることで、非常に気持ちが前向きになる。それが離職率の低下につながっているのだと思います」(同)

 というのも、親会社のFringe81自体、このシステムを運用し始めて以来、離職率は劇的に改善されたのだ。社内運用のころから数えて4年ほどの間に、退職したエンジニアは一人もいないという。当時数十人規模の会社でこの数字は異例と言っていい。

チームの「心理的安全性」を大幅に高める効果も

 また斉藤氏によれば、経営者の立場からしても、Uniposを運用する意味は非常に大きいという。

「経営者の立場からすれば、マネジメント層が見落としがちなスタッフの貢献や努力を発見する機会にもなります。『昨日一番頑張ってくれた人は誰か』と質問されても普通は分かりませんが、Uniposを導入してそのタイムラインを見れば、従業員がどういう働きをしているか、どういう考えで仕事に取り組んでいるかがほぼ分かります。

 社員が50人くらいの規模になれば、おそらく会社に来ていても一日のうちで話ができるスタッフってせいぜい5~6人じゃないですか。中には10日に1回くらいしか言葉を交わさない人もいるかも知れない。

 でもUniposがあったら、社員が1000人いたとしても、エモい投稿や拍手がたくさんついた投稿だけに絞って眺めてみれば、空いている時間に数十件は追うことができるし、スタッフの取り組みやチャレンジを把握することができるんです。特定の部署やマネジメント層だけの投稿に絞って目を通すこともできます。

 スタッフとの距離感を縮めるためのツールにもなっています。スタッフに声をかける時に、ただ『最近どう?』って言うよりも、『Uniposでこういう投稿見たけれど、すごく頑張っているね』って言ってあげたほうが、相手だって『認められている』っていう実感があるみたいです」(同)

 ピアボーナスの仕組みは、実はグーグルも独自のシステムで導入している。同社がピアボーナスに期待している効果は、チームのメンバーの「心理的安全性」を高めることだ。心理的安全性とは、グーグルのリサーチチームが発見した、高いチームに固有の5つの力学のうち、最も重要な要素とされるもの。同社によれば「チームメンバーがリスクを取ることを安全だと感じ、お互いに対して弱い部分もさらけ出すことができる」のが心理的安全性が高い状態であるという。

 この心理的安全性が高いチームは、メンバーが落ち着いて仕事に集中でき、意欲的なチャレンジもどんどんなされ、かつチームへの愛着も高まっていく。

 しかし、だからと言って経営者が、「向こう傷は問わない。失敗を恐れずガンガン新しいことに挑戦してくれ!」と叫んでみても、組織の心理的安全性は高まらないだろう。大切なのは、日常の業務の中での細かな目配りとフォローだ。その点でUniposは、心理的安全性を高める優れたツールと言える。

「自分が何かチャレンジしてみたら、Uniposで『ナイスチャレンジ!』と言ってもらえる。そのコメント一つで、『もっと挑戦の幅を広げてみよう』という気持ちが生まれます。

 小さい挑戦ってみんなやっているはずなんです。でもそれが誰にも気づかれなかったり、失敗して嫌になっちゃったりすると、挑戦の芽がどんどん潰れていってしまう。その一つひとつの芽に対して、『これはいいチャレンジだよ』、『こうしたらもっといい結果が出るんじゃない?』と周囲から言葉をかけあえる環境をUniposは、比較的容易に作ることができる。これが心理的安全性を非常に高める効果があります。当社にも、お互いを認め合って挑戦を称賛する文化が根付いていますが、どんな組織にとってもこの文化は非常に大事だなと実感しています」(同)

 副次的効果だが、Uniposは組織の行動指針を再確認する機能もあるという。

「コメントの後ろに、ハッシュタグをつける機能があります。そこには自由にコメントを書き込むこともできますが、あらかじめ会社が選択肢を設定しておくことが出来るようにしてあります。そこに、その組織が掲げている行動指針を入れておけば、『今日はこんなチャレンジをしてくれていたね。ありがとう。#〇〇』という具合に使うことができます。それによって、『あ、今日のこの取り組みって行動指針に沿ったものなんだ』ということを認識してもらうことができます」(同)

「働き方改革」の進展で、従業員が「働き甲斐」を実感できるような組織作りが模索されている。その中でUniposのサービスは有効な武器になりそうだ。