(細野祐二:会計評論家)
会計評論家として活躍する細野祐二氏が、『会計と犯罪――郵便不正から日産ゴーン事件まで』(岩波書店)を上梓した。かつて粉飾決算に加担したとして罪に問われた細野氏は、一貫して冤罪を主張してきた。事件後は、粉飾決算や経済事件について、豊富な会計知識を武器に鋭い分析・評論を発表してきたが、今回の著作は「経済事件と検察捜査」を考える上で欠かせない一冊となっている。著者の細野氏に聞いた。
「運が悪かったから」有罪なのか
2010年9月、「郵便不正事件」で逮捕・起訴されていた厚生労働省の元局長・村木厚子さんに無罪判決が下りました。そのニュースは瞬く間に日本中を駆け巡りました。村木さんは、「特捜検察と犯罪事実を争い無罪を勝ち取ったヒロイン」として、世の中に広く知られる存在になりました。
その4カ月ほど前です。害虫駆除会社・キャッツの粉飾決算事件の共犯とされていた私は、最高裁での上告審の判決で、懲役2年執行猶予4年の有罪が確定しました。
罪に問われるようなことをしていなかった村木さんは、裁判でそれを証明し、世間に潔白を知らしめることができました。私は、キャッツの経営者と粉飾決算を共謀したこともなかったし、そもそも粉飾とされた決算は適正なものだったのです。しかし、私は「有罪」とされ、裁判で名誉を挽回する道も絶たれている。
私は、村木さんを羨ましく思いましたが、それと同時に、「村木さんは無罪を勝ち取れたのに、どうして私は有罪にされたのか」という疑問が残りました。私はどうしてもその謎を解き明かさなければなりませんでした。本書は、その謎解きの物語なのです。