写真:SportsPressJP/アフロ

 軽乗用車が保育園児13人と保育士3人の列に突っ込み、園児2人が亡くなる痛ましい事故が起きたのは5月8日午前10時過ぎのことだ。園児たちが通っていたのは、現場近くにある「レイモンド淡海保育園」。事故の被害者である。

 しかし、事故当日の夕方に開かれた保育園の園長らによる記者会見は、とてもそうは見えないものだった。押し寄せた記者たちは、まるで保育園側に過失があり、“加害者”であるかのように安全対策に関するきびしい質問を浴びせ続け、それに対して園長らが涙を流しながら答える・・・。「保育園側の会見は必要ないのでは?」「今、保育園の園長先生を会見に出させて会見する意味わからない」といった声が相次いだ。

 じつは、こうした光景は今回が初めてではない。事件や事故が起きたとき、被害者が記者会見の場に”引っ張り出されて”メディアの質問攻めに遭うシーンはこれまで何度も繰り返されてきた。

 なぜ被害者が会見をしなければならないのか?

 企業の報道対策アドバイザーもつとめる、元朝日新聞記者でノンフィクションライターの窪田順生氏に話を聞いた。

10年前まではなかった会見の裏にあるメディアスクラム

 事件・事故の被害者が記者会見を行うようになったのは、比較的最近のことだ。「少なくとも10年ほど前までは、被害者側がマスコミの前にあらわれて会見をしたり、声明を公表したりするということはなかった」と窪田氏は話す。

「ひと昔前、ワイドショーのレポーターが被害者の葬式に押しかけ、悲しみにくれる遺族に『今のお気持ちは?』とマイクを向ける手法が問題になりましたよね。加害者は警察に身柄を勾留されているため、現場の記者たちの取材の矛先がどうしても被害者へと向けられてしまうのです。どんなにマスコミに追いかけ回されても対応をせず、沈黙を貫きを通すことが当たり前だった。事件については話したくない、思い出したくないというのが被害者の心情です。しかし、被害者へのメディアスクラムが問題になるにつれて、殺到するマスコミへの対応を誰かが手助けする必要があるんじゃないか、という機運が高まっていったのです」(窪田氏、以下同)

 メディアスクラムとは、社会の関心が高い事件・事故において、記者たちが当事者や関係者、近隣住民のところに多数押しかけ、強引な取材をすることだ。 当時は押し寄せたマスコミに対し、被害者や関係者が施設前などで「囲み取材」による即席の会見を行っていた。