王毅本人も、「習近平取り込み作戦」が功を奏し、習近平が国家主席に就任した2013年3月、楊の後任の外相として返り咲いた。王毅にとって、習近平は同世代の同じ北京人であり、長く地方に「下放」された経験も似ていた。ここから王毅外相は、習近平主席に絶対忠誠を誓う。

 王毅外相が恐れたのは、程永華駐日大使の後任に、再び楊潔篪が自分の手下を押し込んでくることだった。だから習近平主席に、「中日関係が悪化している現在は大使を替えるべきではない」などと言い訳して、程大使の最長不倒記録に貢献し続けたのだ。

 程大使も、そうした王外相の期待に応えた。例えば、毎年10月1日の国慶節(中国の建国記念日)を祝賀して、駐日中国大使が主催して盛大なレセプションが、ホテルニューオータニで開かれる。その時には程永華大使が挨拶に立つのだが、その内容が毎年、無味乾燥になっていったのだ。その理由は、王毅外相を見習って、「偉大なる習近平様」をことさらに強調するからだった。自由と民主の国に暮らす日本人には、「北朝鮮ではあるまいし」と思えてしまう。だがマジメな程大使は、上司の指示に忠実なのである。

新大使・孔鉉佑は朝鮮語も得意

 そんな程永華大使は、今年の習近平主席の訪日行事を終えて帰任する予定だった。昨年10月に安倍晋三首相が中国を公式訪問し、今年は習主席が国賓として公式訪問する約束をしていたからだ。5月に新天皇が即位するので、安倍政権としては、新天皇に初めて面会する外国の賓客ということで、この上なくプライドが高い習近平主席を満足させようとしたのだ。

 だがその計画は、雲散霧消してしまった。あの日本の同盟国のワガママ大統領が、「なぜオレが一番ではないのだ!!」と癇癪を起こしてしまったからである。かくしてトランプ大統領が、5月下旬に緊急来日することになった。

 今年年末には、ローマ法王が国賓として来日することが決まっている。日本国の毎年の国賓待遇は、最大2人である。そこで日本側は、「9月頃、国賓に次ぐ公賓待遇でいかがでしょう?」と打診したようだが、今度は中国側が「それなら行くものか」となり頓挫。かくして、程永華大使はお役御免となったのである。

「程大使は中国の次期外相になるのでは」との報道も日本であったが、それは100%ない。なぜなら中国の大臣ポストには、「就任時に65歳未満」という年齢条件があり、程大使は今年9月に65歳を迎えるからだ。程大使は帰任後、外交部を退職し、中日友好協会などの日本関連の名誉職に天下りするのではないだろうか。

 ちなみに、昨年3月の外相交代時には、楊潔篪が崔天凱駐米大使を外相に就けようと画策したようだが、やはり年齢制限でかなわず、王毅外相が逆襲し、異例の留任を決めた。

 おしまいに、後任の孔鉉佑新大使についても一言述べよう。

 黒竜江省出身の59歳で、東京の中国大使館で二等書記官、一等書記官、参事官、公使を務めたのは、程大使と同様である。だが、孔新大使の最大の特徴は、初の朝鮮族の駐日大使ということだ。孔新大使は、日本語も流暢だが、朝鮮語も流暢であり、現在は朝鮮半島事務特別代表を務めている。金正恩委員長と面会したこともある。

 そのため、日中外交はもちろんのこと、日朝外交についても、日本が何かと意見を聞ける相手だということだ。日本としては、この利点を活かすべきだろう。