株式市場の急落の背景には、景気後退の前兆とされる金利の長短逆転現象(逆イールド)がアメリカで起きたことがある。米国債10年物の利回りが、3カ月物のそれを11年半ぶりに下回ったのである。この逆イールドは、過去30年で3度起こっているが、いずれの場合も景気後退局面で発生している。たとえば、2005〜2007年の逆イールドの後、2008年9月のリーマン・ショックが起こっている。

 逆イールドは、アメリカのみならず、カナダ、メキシコ、中国、トルコに広がっている。まだ先行きは不透明であるが、投資家の心理を冷やしている。

景気判断が3年ぶりの下方修正

 日本に目を転じると、政府が20日に発表した3月の月例経済報告では、景気判断が3年ぶりに下方修正された。具体的には、「穏やかに回復している」という前月までの表現は維持したまま、「このところ輸出や生産の一部に弱さもみられる」という文言を付け加えたのだ。米中貿易摩擦による「中国経済の減速」が大きく響いているためである。3月28日から、北京で米中閣僚級貿易交渉が1カ月ぶりに再開されたが、この摩擦の解決の目途はまだ立っていない。

 個人消費や設備投資については、今のところは堅調だが、消費税増税で個人消費が落ち込めば、景気後退に拍車をかける可能性が高くなってくる。

 マスコミの世論調査を見ても、景気への懸念が広まっていることが分かる。朝日新聞の調査(3月16〜17日に実施)では、景気の実感として「景気が悪くなった」が49%、「そうは思わない」が41%であり、10月の消費税増税に「賛成」が38%、「反対」が55%だ。

 産経新聞FNN世論調査(3月16〜17日に実施)では、景気回復の「実感がある」9.8%、「実感はない」83.7%、消費税増税に「賛成」41.0%、「反対」53.5%である。

 また時事通信世論調査(2月8〜11日に実施)では、生活にゆとりを「感じている」が6.9%、「どちらかと言えば感じている」が32.9%の計39.8%に対して、「感じていない」21.4%、「どちらかと言えば感じていない」37.1%の計58.5%(前年比3.0%増)。また、消費税引き上げで家計の支出を見直すかという質問には、「見直す」が57.2%、「見直さない」が37.2%であり、具体的な見直す内容は、「食費」が59.4%、「外食、旅行などの娯楽費」が39.5%、「水道光熱費」が37.6%、「携帯電話やインターネットなどの通信費」が31.2%、「衣料品や宝飾品の購入費」が31.0%であった。

 消費者の心理が冷え込み出しているのがよく分かる。それでもまだ個人消費や設備投資が盛んなので現在はよいのだが、これから先、米中経済摩擦が内需にまで影を落とすようになると、「穏やかに回復している」という文言の削除が現実のものとなる。その場合には、消費税増税の延期は避けられなくなる可能性がある。