昨2010年12月、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」が閣議決定された。「防衛計画の大綱」は我が国の安全保障の基本方針、防衛力の役割や自衛隊の態勢、そして自衛隊体制整備の考え方などを示すものである。
期待が失望に変わった新防衛大綱
これまで昭和51(1976)年、平成7(1995)年、平成16(2004)年と3回策定され(以下「51大綱」「07大綱」「16大綱」と呼称)、今回民主党政権下では初めて策定された。
民主党政権にしては想像したよりはまともな新大綱ができたとの印象を持ったが、「区別化の意識過剰」にはいささか危惧を抱いた。
自民党政権下での大綱と「違いを際立たせたい」、民主党政権での「新味を出したい」との意識が過剰すぎる。
このため過去の大綱を誤読、曲解したりするところが多く、結果的に論理矛盾が露呈し、全体として薄っぺらな中身のない大綱になっている。
国家安全保障政策の基本は政権交代しても大きく変わるようであってはならない。政権交代直後、緻密な戦略もないまま、思いつきのように「日米中は正三角形」などと語り、外交方針の大転換を暗示させた。
途端に日中関係、日米関係はギクシャクし、普天間問題で躓いた。あわてて軌道修正したものの、元の鞘には収まらず、退陣を余儀なくされた鳩山由紀夫政権の苦い教訓に学ばねばならない。
言葉だけが踊る「動的防衛力」
新大綱の看板は「基盤的防衛力構想」から「動的防衛力」への転換だという。北澤俊美防衛大臣は講演で「冷戦期からの『基盤的防衛力構想』から決別」を強調した。
だが、「動的防衛力」という言葉が踊るだけで、何がしたいのか明確でない。防衛省による説明も、説明者によって内容が異なるし、突っ込んだ質問をしても確たる回答は返ってこない。
防衛大臣は「存在自体による抑止効果を重視する基盤的防衛力構想から、防衛力の運用に焦点を当て、即応性や機動性を備え持つ動的防衛力へ転換する」と述べた。
また「貴重な防衛力を各地に固定的に張り付けておくより、必要なところに動かして、防衛力を機動的に運用しようとするもの」とも述べている。