(加谷 珪一:経済評論家)
ホンダが欧州の生産拠点である英国工場の閉鎖を決定した。世間一般ではブレグジット(英国のEU離脱)対応と受け止められているが、それだけが理由ではない。ブレグジットが1つのきっかけになったのは間違いないだろうが、今回の決定はホンダが、EV(電気自動車)化と中国シフトを念頭に、本格的な再編に動き出したことを象徴している。
会見ではブレグジットに関する質問が集中したが
ホンダは2019年2月19日、英国南部にあるスウィンドン工場を閉鎖すると発表した。同工場は1985年に設立され、現在は主力車シビックなど、年間約16万台を製造している。今回の閉鎖で欧州における生産拠点はなくなり、従業員3500人は解雇される見通し(労使交渉はこれから行うとしている)。
英国は現在、ブレグジットをめぐって混乱のピークにある。こうしたタイミングで英工場閉鎖が発表されたこともあり、記者会見に臨んだ八郷隆弘社長にはブレグジットに関する質問が集中した。八郷氏は、今回の決定とブレグジットは関係ないと繰り返し説明したが、世間はそうは受け止めていない。
だがホンダが置かれている現状を総合的に考えると、ブレグジットとは直接関係しないという八郷氏の発言は、あながち嘘ではないだろう。今回の決定のカギを握っているのはEV化と中国シフトである。
もともとホンダは欧州で苦戦しており、グローバルに見た場合、欧州事業の優先順位はかなり低い。ホンダの世界販売台数は約520万台だが、欧州はわずか18万台であり、言い方は悪いがないに等しい市場である。
今回、閉鎖される英国工場も、生産したクルマの7割が北米もしくは日本向けに輸出されており、必ずしも欧州向けの生産拠点というわけではない。今後、欧州で販売する車種については日本から輸出する方針であり、北米市場向けは北米での現地生産に切り替えるという。
では、なぜこのタイミングで英国撤退なのかというと、中国でのEV生産を本格化することがほぼ確実になったからである。