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(文:平野雄吾)

 外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法などが2018年12月、国会で可決、成立した。深刻な人手不足を背景に、政府はこれまで正面からは認めてこなかった非熟練労働分野にも門戸を開放、日本の外国人政策の大転換となった。4月から始まる新たな受け入れ制度では、主な人材供給源として想定されるのが外国人技能実習生。だが、国会審議では実習生の長時間労働や賃金未払いなど劣悪な労働環境が改めて批判の対象となった。

 多くの実習生は母国の送り出し機関、日本の監理団体という2つの仲介組織に管理され、実習先の中小企業などで働く。実習生の半数近くを占めるベトナムでは現在、送り出し機関を運営する「実習生ビジネス」が拡大している。実習生が過酷な労働環境に追い込まれる背景に、送り出し機関への手数料など高額な渡航前費用の存在が指摘されるが、ベトナム側の事情を見ると、手数料が高騰する仕組みが浮かんでくる。

日本で働くベトナム人実習生は急増

CEO社の本社ビル。近代的な高層ビルからは同社の勢いが感じられる

「絵を見て例文を作ってください」。ベトナム人女性教師が、眼鏡をかけた老人が新聞を読んでいる絵を白い壁に映し出すと、生徒たちが次々と手を上げる。「これは眼鏡です」「眼鏡をかけています」――。

 2018年春、ベトナム北部バクニン省。首都ハノイから約30キロ、田園地帯に広がる真新しい研修施設で日本語の授業が実施されていた。運営するのは「C.E.Oサービス開発株式会社」。日本へ実習生を派遣する送り出し機関で送り出し人数がトップ5に入るとされる大規模会社だ。短大として建設された校舎を買い取り、パソコンルームや運動場も完備、介護の研修室には日本から輸入した介護ベッドや車いすが配備されている。

研修施設の壁に貼られた5Sの標語。研修施設の5原則には「うそをつかない」「ぬすまない」など当たり前と思われるような標語も

 2017年8月に開校したこの研修施設では、約60人が電子機器組み立てや介護での実習生を目指し、集団生活を送っていた。全員制服を着用し、毎日ラジオ体操を実施、壁には金の額縁で標語が貼られている。「5Sとは――。①整理、②整頓、③清掃、④清潔、⑤躾」「ほう・れん・そう 報告・連絡・相談」。日本企業が何を求めているのかが窺える。

 ベトナム人が実習生として日本で働こうとした場合、通常、送り出し機関に登録する。そこで数カ月間から約1年間、日本語の勉強や日本で働く職種の技能訓練を受講。その間に日本の受け入れ窓口となる監理団体との面接などを経て職場が決定、日本の入国管理局が在留資格を出せば、日本行きが決まる。

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