イギリスでは、EUからの離脱案がまとまらず「合意なき離脱」となってしまう可能性がある。そうなると、イギリスのみならずEU、そして世界に混乱が広がるだろう。
フランスでは、改革を試みるマクロン政権が、毎週末に繰り返される反政府デモによって改革のテンポを緩めざるをえなくなっている。ドイツでは、メルケル時代が終焉を迎えつつあるが、それに伴って反移民の右派勢力が台頭してきている。イタリアでは、反移民の大衆迎合政権が、ばらまき予算を組んで、EUと緊張関係にある。
反移民、ポピュリズムの波はヨーロッパ全体に波及し、スウェーデンやベルギーでは連立政権の枠組みが決まらない状況が続いている。
以上のような西ヨーロッパや北ヨーロッパについては、日本でも注目されるが、ポーランドやハンガリーのような東欧諸国も今後の民主主義の動向に大きな影響を与えることを忘れてはならない。
東欧に広がる民主主義を葬り去る動き
先述したように、20世紀において社会主義体制の崩壊に果たした東欧諸国の役割は大きい。21世紀になって、東欧諸国などの加盟によって、EUが拡大していった。2004年5月に加盟したのが、チェコ、スロヴァキア、ポーランド、ハンガリー、スロヴェニア、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、マルタ、キプロスの10カ国である。2007年1月にはブルガリアとルーマニアが加盟している。
イギリスがBREXITを決めた背景の一つはEUに加盟したポーランドからの移民の急増である。これがイギリス人労働者の職を奪い、賃金を下げているという不満が、EUに対して爆発したのである。
ハンガリーでは、米ソ冷戦時代に共産党政権を批判し、ベルリンの壁崩壊への先駈けを造った若き活動家、ビクトル・オルバンが今や首相となって国を統治している。彼は、政権党「フィデス」を率いて、反移民政策などで大衆を煽り、大衆の支持さえあれば民主主義的価値観が損なわれてもよいという「自由でない民主主義(illiberal democracy)」を唱道していることで有名である。
ポーランドでは、極右政党「法と正義」が政権に就いているが、司法に政治介入したり、ナチス占領下でポーランド人が行ったユダヤ人迫害という歴史的事実を否定したり、右寄りの姿勢を強めている。
チェコも同様で、一昨年10月の下院選挙で中道右派の「ANO2011」が勝利し、「チェコのトランプ」の異名を持つ富豪のバビシュが首相に就任した。因みに、日系のトミオ・オカムラ率いる極右政党「自由と直接民主主義」が第3位の議席を獲得し躍進したことも話題を呼んだ。
ソ連に押しつけられた共産主義を打破する先頭に立った東欧諸国が今度は、民主主義を葬り去る動きに先鞭を付けようとしている。東欧から始まった自由化の動きが、30年後に「逆コース」を辿り、ポピュリズムに身を任せようとしている。
大衆民主主義においては、政治家は、善悪二元主義で、敵を作り上げて徹底的に攻撃し、支持率をあげるという安易な手法を採用しがちである。それがまさにポピュリズムであるが、ユダヤ人を諸悪の根源としたヒトラーの大衆操縦法と大同小異である。東欧を含むヨーロッパ諸国の政治の行方は、民主主義の将来を左右しそうである。