家族に「普通」はない、と僕は思う。でも、多くの人が、結婚し子どもを産む時「普通」を求めるように思う。「普通」の家族、「普通」の子ども、「普通」の幸せ・・・。

 存在しないものを追い求めるから辛くなる。結婚していない僕は、そんな風に感じてしまう。もちろん、「普通」という言葉に具体的なイメージを乗せることができる人ならいい。具体的なイメージが自分の内側にあった上で、それらを総称して「普通」という言葉を使っているならばいいと思う。

 しかし、なんとなくだけど、そうは見えない人が多い印象がある。「普通」という言葉で、漠然とした、でも誰もが同じイメージを抱いているはずだ、という幻想を表現しているように、僕には感じられることが多い。

 家族に「普通」はない。でも、そのことにはなかなか気づくことができない。僕もそうだが、基本的に人は、自分が生まれ育った家族しかきちんと知らないからだ。今回は、さまざまな家族の形を知ることができる3冊を紹介しようと思う。

夏石鈴子 『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』

 主婦を主人公に据えた、8編の短編を収録した短編集だ。主人公は皆違うが、どの主婦もどこにでもいそうな、言ってしまえば平凡な主婦だ。子どもや夫や義母のことで悩み、夫の薄毛や自身の病気について悩み、やり場のないイライラを溜め込んでいく。そういう、ごくごく平凡な主婦を、平凡な日常とともに等身大で描きながら、女性であること、女性として生きること、そういうこと全般に対する著者の考え方が随所に散りばめられている作品だと感じる。