偽名などを使って、科学的な根拠のない「偽論文」がアカデミックな専門誌に多数投稿され、その中のいくつかは「査読」を通過して、実際に掲載されていた。
こうしたスキャンダルが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、https://www.wsj.com/articles/fake-news-comes-to-academia-1538520950)などによって報道されました。
ある著者は、2017年8月から、科学的な根拠のない「偽論文」を20ほど作成して偽名で雑誌投稿、そのうち7つが審査を通過し、4つが実際に雑誌に掲載されたといいます。
その内容は「肥満は称賛されるべきものだ」とか、ドッグショーの観察を通じて得られた犬と飼い主の挙動の分析から「レイプ文化」を考察する、あるいはナチス・ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーの主著「我が闘争」をフェミニズムの観点から読む、など、一見すると関連の分野で興味を惹きそうなキーワードや内容を選んで、その先では荒唐無稽な「小説」のようなものを、さも研究結果であるかのごとく装って贋作する、というスタイルで作られているようです。
こうした「偽論文」が投稿、また掲載され「やすい」と判断され、実際にターゲットとされた雑誌のジャンルは「カルチュラル・スタディーズ」と呼ばれる学問分野が中心となっています。
この「カルチュラル・スタディーズ」を巡って、いくつか検討してみたいと思うのです。
「カルスタ」登場の背景
カルチュラル・スタディーズ、邦訳すれば「文化研究」などとも訳せそうですが、なぜか英文カタカナのまま日本でも流通しています。
一般には、バーミンガム大学のスチュアート・ホールらを嚆矢として1960年代半ばに発生したとされる、比較的若い学問分野の一つと言って良いでしょう。
略称「カルスタ」。このカルスタが日本で普及してきた当初、私自身は中学高校生として記憶していますので、やや偏った切り口とのご指摘を覚悟のうえで、そのあたりから記してみたいと思います。
「カルスタ」は、やや乱暴な言い方をすれば「構造主義」への批判から生まれたと言ってよいように思います。1960~70年代初頭にかけて、フランスや米国で大きな思潮となった「構造主義」。
その端緒は、フランス=ユダヤの文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースなど「構造人類学」の成功と、とりわけレヴィ=ストロースがジャン=ポール・サルトルとの議論に実質的に勝ったことが背景にあるように思います。
ノーベル文学賞を受けながら辞退した20世紀中葉の超弩級哲学者=文学者、サルトルは、ソ連を擁護し親ソ的な社会主義のスタンスを生涯貫いたと言っていいでしょう。