現在生起している米中貿易戦争は、単に米中間の貿易不均衡を巡って生じたものでない。中国による不公正な貿易慣行に対する制裁措置として関税を引き上げたものである。
中国の米国の知的財産侵害に対する度々の是正要求に対して中国はその都度、是正を約束したが、中国の行動は変わらなかった。
一例を挙げれば、2015年9月の米中首脳会談で、米国と中国は、競争上の優位性を提供する目的で、企業秘密または他の秘密のビジネス情報を含む知的財産のサイバーを利用した窃取を行わないまたは知っていながら支援しないことで合意した。
簡単に言えば、政府機関による自国の国有企業または民間企業の経済的利益のためのサイバースパイ活動をやめるということである。
ところが、合意後3週間のうちに、米国の企業7社が中国政府と関係するハッカーからサイバー攻撃を受けた。そして、その後もサイバー攻撃がやむことはなかった。
トランプ政権はこのような中国の態度に業を煮やして、今回の制裁に及んだのである。
米の戦略家エドワード・ルトワック氏は、新聞とのインタビューで次のように述べている。
「中国企業は米国の先端技術を盗み、自分のものにして大きくなった。それらの中国企業は国家安全省とつながっており米国は問題視している」
「(中略)これはビジネスの問題でない。中国が支配する世界、中国に牛耳られた経済の中で生きていくのか、それとも複数の極がある世界で生きていくか、という問題である」(読売朝刊10月13日)
現在進行中の米中貿易戦争の根底には、ルトワック氏の言うとおり米中2大国による覇権争いが存在しているのは間違いない。