ソ連時代のモスクワ出張というのは、滞在中の食事用に味噌汁、日本茶に始まって、ふりかけや海苔、佃煮などから即席麺に米まで持参したものであった。
別に日本食が恋しくて持ち込むわけではなく、1人になったときに食べるものが簡単には手に入らないからであった。
もちろん、当時からレストランはあったが、展開の遅いフルコースを長時間かけて食べる独り飯は辛さが先に立った。
往きのスーツケースは満杯、帰りはガラガラ
だから出張期間が長いと、食材がスーツケースに入り切らず、いくつものダンボールを担いで行くことになる。
一方、帰りには、空になったスーツケースには入れるものもなく、ガラガラの状態で帰国したものであった。
そんな時代から40年が経過し、現代のロシアは食事に関する限り、状況は完全に欧米先進国と同じ、あるいはそれ以上になった。まず、食材が豊かになった。
モスクワの“紀伊国屋”と言われる「Azbuka Vkusa」、自然食品が売り物の「VkusuVill」などが、モスクワ中にチェーン展開しているおかげで、どのホテルに泊まっても、近所にこれら特徴のあるスーパーが見つかる。
筆者は、ホテルの自室で消費するフルーツ、乳製品に加え、はちみつやブリニーミックス(ブリニーというロシアンクレープ用)、さらに黒パンなど重量の張る食品を土産として買い込むので、帰国便に載せるスーツケースは制限ギリギリまで重くなる。
次に革命的に変化したのが、レストラン産業だろう。
1995年から2005年というレストランビジネス創成期にはアルカディー・ノビコフ氏やアンドレイ・デ・ロス氏といった、現在にも続くレストランビジネス成功者が輩出する。