ロンドンの「ハロッズ」デパート、パリの「ラファイエット」デパート、東京・銀座のデパートはどこも気前のいい中国人観光客を待ち構え、中国の「銀聯」カードが使えるようにインフラを整備し、中国語を話せるガイドを用意している。

 先進国では中国脅威論が語られているが、世界経済がリセッションから脱出できない中、経済については中国頼みになっている。

 2011年1月に米国を公式訪問した胡錦濤がワシントンで受けた歓迎ぶりは、実に破格のものだった。米国の価値観からすれば中国の「人権侵害」は看過できるものではない。だが、米国は利益を優先せざるを得なかったのだろう。

 最近、香港では4億元(約60億円)以上の豪邸が中国の民営企業の経営者によって購入され、香港不動産史上の最高価格記録が更新された。

 中国はどうしてこんなにも金持ちの国になっているのだろうか。1人当たりのGDPで見た場合、まだ4000ドル程度なのに、世界を丸ごと買ってしまうかのような勢いだ。

一部の者が先に豊かになるのを認める「先富論」

 中国で貧富の格差が拡大していることがよく指摘される。

 これまでの30年間、中国は経済改革を進めてきたが、大多数の国民は必ずしも豊かになっていない。すなわち、現在の中国は「強国貧民」という状況にある。

 それは無理もない話だ。鄧小平の改革の理念は、一部の者が先に豊かになるのを認める「先富論」だった。

 大多数の国民が豊かにならない原因は、「労働分配率」(賃金合計÷GDP)が40%と低く抑えられているからである。毎年、国民全員が一生懸命働いて作ったGDP(付加価値の合計)は、60%が政府と企業に取られている。これでは、国民が豊かになるわけがない。