層別化を基にした新しい医療の創出に向けて
品川:それでは最後に、少し概念的な話になってしまいますが、私たちはがん遺伝子の解析というところで世界のベンチャーと会話をする機会があります。その中で遺伝子情報に対する価値観というものを興味深く見ているのですが、遺伝子情報は商売道具と割り切った見方や、各個人に紐づく大切なアセットだという見方もあります。先生にとって遺伝子情報とはどういうものとお考えでしょうか。そして、創薬の観点などからも、先生のお考えやToMMoの展望をお聞かせください。
山本:遺伝子情報は個人を創り上げている非常に大切なものであり、私たちは個人に即した医療(個別化予防・医療、先制医療、ゲノム医療など)をやろうとしているわけです。“皆に効いて皆に副作用のない”といった一律的な評価による医療サービスは、もはやおおらかな時代の産物でしょう。これからは診断や治療も当然、個別化が進んでいきます。私たちは、一人一人が異なる個性で多様性を創り上げていて、その多様性こそが社会を健全に保っている源だと思います。
よく複雑系の議論で言われるのが、「カオスの縁(ふち)の生命」という言葉です。秩序で固定された不変のものは滅び、反対に混沌とした中に埋没しても生命たり得ないが、秩序と混沌の境界にある非常に柔軟で変化に富んでいるような状態こそが私たちの社会を保ち、生命をつないでくれている。その意味で変化や多様性が大切であり、その多様性を支えているものが遺伝子の変化であるということです。
私たちがToMMoでやりたいことは、究極には個別化医療ですが、まずは層別化=Stratificationの医療をつくりあげることが大事だと考えています。今の標的医薬なども要は層別化であり、ゲノムを使ってしっかりセグメント化することが次世代の医療を豊かなものにしていく。ここ数年で新薬開発はバイオへと一斉に舵を切っているように思えます。
しかし、疾患や薬物によってそれぞれ反応する発現遺伝子をセグメントし丹念に分析することで、これまで一律的な評価によって有用性を認めないとされた低分子化合物でも、十分に有効性が期待できる患者タイプの抽出が可能だと思っています。そういう意味では、「バイオ医薬シフト」だけではなく、「低分子化合物回帰」の可能性もあり、ここに強みを持つ日本の製薬企業にはまだまだ希望があります。
IQVIAが見据えるライフイノベーション
品川:本日は貴重なお話をお聞かせくださりありがとうございました。山本先生の自然科学に対する畏敬の念と、復興とイノベーションへ挑戦する使命感に、心から共感致しました。いよいよオンライン診療が保険適用されるなど医療の分野も様々な技術革新が見られます。日本ではまだですが米国では先行して、バーチャルトライアルという、遠隔で被験者の状態把握ができる臨床試験が始まっています。
先ほど山本先生は三世代コホート調査のお話の中で、高いデータ収集率を実現できた要因の一つに、リクルーティングに際しリサーチコーディネーターが妊婦さん一人ひとりと対面で接していたエピソードを紹介頂きました。実は世界で初めてのバーチャルトライアルは、患者さんが思うように集まらずうまくいかなかったそうです。ところがその次に、かかりつけ医の協力を得ることで患者さんのリクルートはうまくいったそうです。
モバイルツールの発達で治験に参加しながらも、副作用発現時や採血時など以外は医療機関へ出向く必要がなくなり、バーチャルトライアルは従来の時間や場所という制約を一気に変えました。技術革新が画期的な価値をもたらす一方で、患者の皆さんへ寄り添う思いは普遍的であることも実感します。
今後、このような利便性や効率性が高まることで、個別の人生観や価値観が医療のあり方へ反映されるようになるはずです。IQVIAとしても、これらのライフイノベーションを駆使しながら、私たちが患者さんのために何ができるかを追求し、日々の活動で実践していきたいと思います。
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プロフィール
東北大学大学院医学系研究科 教授
Tohoku Medical Megabank Organization
Executive Director
Professor, Tohoku University Graduate School of Medicine
1983年 東北大学大学院医学研究科 修了(医学博士)
1983年 米国ノースウエスタン大学 博士研究員
1991年 東北大学 医学部 講師
1995年 筑波大学 先端学際領域研究センター 教授
2007年 東北大学 医学系研究科 教授
2008年 東北大学 副学長
同 大学院 医学系研究科 研究科長・医学部長
2010年 東北大学 Distinguished Professor
2012年 東北メディカル・メガバンク機構 機構長
2012年 紫綬褒章受章
2014年 日本学士院賞受賞
2015年 Michigan大学Adjunct Professor
2017年 柿内三郎記念賞受賞
2017年 日本生化学会 会長
IQVIAサービシーズ ジャパン株式会社 臨床開発事業本部長
1995年より現在に至るまで休日は川崎市内の病院で非常勤医師として勤務
1996年 ノバルティス(旧チバガイギー社)臨床開発部入社
1998年 グラクソ・スミスクライン(旧日本グラクソ)入社、安全性管理業務に携わる
2001年 アストラゼネカ入社、臨床開発部所属
2005年 ヤンセンファーマ入社、マーケティング部所属
2010年6月 クインタイルズ(現IQVIA)、VP, Medicalとして入社
2011年1月 臨床開発事業本部長就任
2015年10月 シニアバイスプレジデント就任
2017年 昭和大学大学院医学研究科 医学博士号取得(循環器内科学)
※1965年神奈川県出身
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