三世代コホートのカギは地域との信頼関係
IQVIAジャパン グループ
IQVIAサービシーズ ジャパン株式会社
臨床開発事業本部長
品川:ありがとうございます。ToMMoでは、子世代、親世代、祖父母世代の三世代にわたる七万人規模での三世代コホートに取り組まれていますが、同様の取り組みが米国や英国の例では失敗していますね。なぜこの東北の地ではうまくいったのでしょうか。
山本:三世代コホートは、産婦人科医院・病院に当機構のリサーチコーディネーターを派遣し、そこで直接妊婦さんをリクルートさせていただきました。その際、ほとんどの施設で部屋の提供や、リクルート支援などの協力がございました。
米国や英国の例はロケーションが大都市でしたが、東北では地方都市としての地域的、歴史的なつながりが基盤にあったと思います。東北大学は110年以上にわたって宮城県の医療を支えてきた歴史の中で、県民の方々と強い信頼関係を築いてきました。2011年の東日本大震災後も、地域医療の復興に一生懸命力を注いできたことを、県民の方々にご理解いただけていると感じています。今傷ついた世代の方々の健康と共に、「次世代の健康を一緒に守っていこう」という点で特に共感をいただいており、そうした信頼関係がうまくいった大きな理由ではないかと思います。
ヘルスケアデータが可視化するこれまでの生活環境
品川:ToMMoのデータは、生活環境、家族環境も反映されたライフデータということですが、今、RWDは臨床研究に加えて疫学研究、承認申請、製造販売後調査と医薬品のライフサイクル全般で活用されようとしています。バイオバンクの活用方法についてお聞かせください。
山本:私どもは前向きコホートとして、最初にリクルートして調査したベースラインからフォローアップを継続していくのですが、併せて、15万人のデータを活用したアドオンコホートも積極的にお受けしています。例えば、今進めているアドオン事例の一つが、オムロン ヘルスケアさんとの高血圧関連のプロジェクトです。これは、コホートの中から血圧に興味がある方を無作為抽出して栄養指導を行い、尿中のナトリウムとカリウムの比を測って実際の塩分と野菜の摂取状況を調べるというものです。食生活と日常活動の関係性を逐次観察し把握できるので、効果的に行動変容を促す可能性があります。
また、JR東日本さんとのプロジェクトでは、東日本大震災後の宮城県において歩行習慣とBMIと交通網との関連性に関する研究を行いました。これは私どものコホート調査の参加者で岩手県内と宮城県内の居住者の住所15万件をGIS(地理情報システム:Geographic Information System)でマッピングし、生活圏における職住や公的施設の関係性を解析し、健康指標を割り出していくものです。具体的には、駅からの距離を2㎞ごとの同心円にして、駅の近くの居住者と駅から遠い居住者のBMIを比較しました。すると、駅から2㎞以内の人の方がBMIが低く、2㎞を超えるとBMIが高くなることがわかりました。
当初は逆を想定しており、駅近の方が歩行距離も短く、食事を取る時間的余裕もあるからBMIが高いかなと思っていましたが、駅から遠いと車の使用が必須になりかえって歩行機会は減るのかもしれません。他には東北大学病院で受診された妊婦さんのご協力のもと、NTTドコモさんとスマホを使った妊娠中から出産時までのバイタルデータや活動量を収集するプロジェクトもあり、これは非常に高いデータ収集率を残せました。私どもはそういう健康に関する詳細な情報で企業との共同研究を行っています。
また、この計画で構築したデータを格納するスーパーコンピュータに遠くからアクセスすることができる遠隔セキュリティエリアを設置することで日本各地の機関と当機構との連携を図っています。アカデミアとの連携が主ですが、他には製薬企業の団体組織である日本製薬工業協会、自治体の神奈川県を含む全国11箇所で運用中です。神奈川県はライフサイエンス・環境分野の国際的な研究開発拠点を殿町に設けており、北里大学 竹内正弘教授がセンター長を務めるかながわクリニカルリサーチ戦略研究センターや、人工知能基盤技術とその実世界応用の拠点施設である理化学研究所の革新知能統合研究センターにも設置されています。最近、更に新たな数箇所も準備しています。
このような緊密な連携を図ることで、既存のサービスやインフラがヘルスケアデータで解析され再定義を促し、ヒト中心の健康なライフスタイル構築に科学的にアプローチできると思っています。