2016年の第1回ナショナルデータベース公開、翌年の改正個人情報保護法施行、そして本年のMID-NET稼動や次世代医療基盤法の施行と、RWD(リアルワールド・データ) に代表される医療ビッグデータの利活用環境は整備されている。一方その範囲も、治療だけでなく予防・未病や健康寿命といったライフコース全般、そして既存の社会サービスへの適用も検討されつつある。
対談シリーズ第六回には、東北大学 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)機構長の山本雅之氏をお迎えし、バイオバンク利活用の可能性や展望についてお話を伺った。モデレーターは、IQVIAジャパングループで臨床開発事業本部を統括する品川丈太郎である。
ビッグデータの解析を通して病気の因果関係に光を
品川:これまでRWDとして、実臨床データの利活用について研究者にお話を伺ってきました。今回はバイオバンクのお話を伺い、これからのライフイノベーションのヒントを探りたいと思います。山本先生は、東日本大震災を機に東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)を設立されました。このバイオバンクについて、RWDとの違いなどの観点からお聞かせください。
東北大学
東北メディカル・メガバンク機構 機構長
東北大学大学院医学系研究科 教授
山本:先ず、認識合わせとしまして当機構のデータも現実世界で収集されたもので、広義のRWDだと捉えています。今般よく使われるRWDは主にカルテやレセプトなど診療データを意味しており、「診療の過程で生成されるデータ」だと思います。
一方、ToMMoのデータは「積極的に働きかけて、創出するデータ」です。そのために、地域住民の方や患者さんにお集まりいただいてコホート(観察対象の集団)をつくり、診療時だけでなく、未病や発病初期など診療時以外のデータも集積しています。そこが狭義のRWDと大きく違うToMMoの特徴だと思います。
品川:そうした東北メディカル・メガバンク機構を創設された、動機やきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
山本:病気の早期診断や詳しい病態の理解にあたって、患者さんの症状と経過だけを研究してもわからないことがたくさんあります。例えば、東北地方は寒いのでしょっぱいものを多く食べる。そして高血圧人口が多いというデータから、「塩分摂取と高血圧は相関傾向があるから、高血圧の人は減塩によって進行が防げる」という話になるのですが、実際はそれだけではメカニズムはわかりません。一つはそこにものすごく不十分さを感じるわけです。
もう一つは、試験管やマウスを使っていたこれまでの医学研究が、人を対象とした学問にシフトしつつあります。その流れもあって、原因と結果が可視化できるゲノムコホート研究が注目されています。私たちが東北メディカル・メガバンク計画で構築したバイオバンクでやりたいことは、未病もしくは発病初期段階のデータを合わせて遺伝子等のデータを調べるということです。つまりビッグデータの解析を通して、病気の原因と結果の関係を理解する学問を創り上げたい。それがToMMo創設の一番の理由です。