日本が世界と対等に戦えるようになるにはどうすればいいのか。現地で取材を続けるサッカージャーナリスト・神尾光臣氏が、サッカー大国・イタリアからその姿を探る。
サッカーファンであればイタリアサッカー界が長らく低迷を続けてきたことをご存じであろう。数々のスキャンダル、経営破綻、ついには代表のW杯逸……。一方でそのサッカー文化の浸透度はサッカー大国にふさわしく、自国が出ていないW杯ですら全試合が放送され、討論番組が用意された。
ときに手本として、ときに反面教師として、イタリアサッカー界から学ぶべきものとは。今回はクリスティアーノ・ロナウドの加入と、デビュー戦に見たハイレベルなサッカー文化を紹介する(JBpress)
イタリア全体が渇望していたスターの存在
18日、イタリア1部リーグセリエAは、近年にない盛り上がりの中で開幕した。理由は言うまでもなく、クリスティアーノ・ロナウドがユベントスに移籍したことだ。
7月10日に移籍が決まった後から今まで、彼の名が地元紙に載らなかった日はなかった。ユベントスのホームであるトリノはもとより、どの街でも「RONALDO7」のユニフォームを着ているファンの姿が見られ、アリアンツ・スタジアム(ユベントスのホームスタジアム)の年間シートとホーム開幕戦であるラツィオ戦のチケットは早々に売り切れた。
ユベントスの親企業グループであるフィアット・クライスラー・オートモービルズ社の工場の社員の一部が、およそ3100万ユーロというロナウドの年俸捻出に反発を覚えてストライキを宣言した以外、反感が示された様子はない。近年は「金が回りすぎてサッカーは変わってしまった」と嘆くサッカーファンも増えていたが、どういうわけかロナウドの移籍に対して大きな批判が向けられた印象はなかった。
「ユーベにとっても、また(イタリアサッカー全体の)ムーブメントにとっても素晴らしいこと。これまでやってきた外国人選手たちはやっぱり質が悪く、図抜けた選手ばかり、というわけでもないからね」
イタリア代表のロベルト・マンチーニ監督は、地元紙のインタビューでそう語っていた。それは、ファンの思いも代弁しているだろう。リーグで7連覇をしても、UEFAチャンピオンズリーグ制覇には手が届かないユベントスには、エースの存在が欠けていた。何より、近年のセリエAに国際的なタレントがいなかった。その事実はそのまま、リーグの凋落を象徴していた。
ここ20年のセリエAを簡単に振り返ってみると、その凋落具合がよく分かる。