しかも困ったことに、今後、総人口の減少が本格化しても、高齢化が止まるわけではない。今から出生率を上げても状況は同じで、今後、数十年間、労働力人口が増えないのはほぼ確定的な状況なのだ。

需要の低迷が逆に人手不足を引き起こす?

 ここで勘違いしてはいけないのが、人手不足による倒産というのはあくまで直接的な原因に過ぎないという点である。「消費の低迷」という経済の基礎体力の弱さが大きく関係しており、この部分がもっとも重要なポイントとなる。

 逆説的な言い方だが、もし国内に旺盛な需要があれば、同じ労働力人口でも、これほどの人手不足にはならなかった可能性が高い。

 労働者の中には、高額の賃金をもらえるのであれば、深夜労働や長時間労働は厭わないという人が一定数存在している。ひっきりなしに注文が舞い込む状況であれば、企業は容易に値上げを決断できるので、その業種の賃金はあっという間に上昇する。すると、安定はしているものの生産性が低い業種から、高い賃金を支払う業種に労働者が転職していくので、労働力の最適配分が進み、必要性の高い仕事には人が充当される。さらに言えば、できるだけ人手をかけなくても業務が遂行できるよう、企業は思い切った設備投資を行うので、省力化も進む。

 ところが現状は、消費が低迷しており、値上げを実施すると売上げがガクンと落ちてしまう状況だ。企業活動は基本的に縮小傾向となり、繁忙期に入っても思い切って人を増やすことができない。結果として、少ない需要であるにもかかわらずそれを満たすことができず、さらに生産が低下するという負のスパイラルに陥ってしまう。

 一方、コストの増加分を企業が無理に価格に転嫁すると、今度はインフレを引き起こす。

 物価が上がって脱デフレになれば景気がよくなるのかというとそうではない。物価が上昇すると消費者の購買力が減ってしまい、名目上の物価が上がるだけで、実質は何も変わらないという状況になりかねない。

 人手不足による供給制限がかかっており、かつ労働市場に流動性がない場合、無理に景気対策を行っても効果は限定的だ。結局のところ物価だけが上がるという結果に終わってしまうだろう。