説明するまでもないことだが、日本経済は従来、経験したことのないレベルの人手不足に陥っている。
日本の総人口はこれまで横ばいで推移しており、本当に人口が減り始めるのはこれからである。だが人口減少と少子高齢化は不可分の現象であり、総人口の減少に先んじて高齢化が進んできた。これが現在の人手不足を引き起こしている主な要因である。
過去15年間で34歳以下の人口は約22%減少したが、60歳以上の人口は43%も増加した。外食産業や小売店、運送会社などは若い労働者を欲しがるので、こうした業界では極端な人手不足となっている。ただ、若年層の労働力はほぼ確保し切った状況となっており、現在は、体力が必要な仕事であっても高齢者が次々と就業している状況だ。
ある企業では、20代から30代の若手を想定して、軽作業を行うパート社員を募集したところ、応募してきた候補者のほとんどが60歳以上だったという。働く意思のある人の多くは、すでに働きに出ている可能性が高い。
女性のM字カーブがあっという間に解消
日本の余剰労働力のほぼすべてが雇用されてしまったという状況は、女性のM字カーブ現象が、一瞬で解消されてしまった事実からも伺い知ることができる。
日本は先進諸外国と比較して、子育ての環境が整っておらず、多くの女性が出産を期に職場を離れている。女性の年齢別就業率をグラフにすると、子育ての時期と重なる25歳から35歳の部分で顕著な数字の低下が見られる。40代になると、パートなど非正規労働者として働き始める人が多いことから、就業率は再び上昇し、グラフの形は30代の部分を中心にくぼんだ形(つまりM字型)となる。これを俗にM字カーブと呼ぶ。
政府はM字カーブ解消を政策目標として掲げ、保育施設拡充などの施策を実施してきた。当初、なかなかM字カーブはフラットにならなかったが、ここ数年の人手不足によってM字カーブ問題はあっとう間に解消されてしまった。これほど簡単にM字カーブが消滅した現実を考えると、人手不足がいかに深刻なのかが分かる。