2001年、筆者がまだ半導体の技術者だったころ、セミコン・ジャパンのシンポジウムで、「半導体はもはやネジ・クギになった。『うまい、早い、安い』吉野家の牛丼のように、 『小さい、速い、安い』半導体を作るべきである」と発表した。ところが、「半導体をネジ・クギとは何事か!」と大顰蹙を買った。

 リーマン・ショックをきっかけとして、512MビットDRAM価格が1ドルを下回り、0.5ドルにまで値下がりした。これを見て、「DRAM 1ドル時代が到来した」という講演を行った。しかし、DRAMメーカーなどから「それはあり得ない」と反論された。

 DRAMメーカーにとっては、極めて高価な最先端の微細化技術を用い、苦心惨憺して製造したDRAMが「たったの100円」では、「やってられない」だろうし、そんな時代が来てほしくないという思いもあったのだろう。

 そして、1GビットDRAMの価格はまたしても1ドルを切った。日経産業新聞(2011年1月11日付)によれば、1GビットDRAM(主力品のDDR3型)の大口需要家向け価格は、2010年12月後半分が0.98ドル前後となり、2009年5月と比べてほぼ3分の1の水準となった。「またか」という感じであり、もはや驚く人もいないのではないか。

 DRAM価格は、需要と供給のバランスによって決まるため、ミクロな乱高下はある。しかし、マクロ的なトレンドとして、年々、DRAMをはじめとする半導体の低価格化が進行していることは紛れもない事実である。その象徴として筆者は「DRAM 1ドル時代」という言葉を使ったわけだ。

 では、このような半導体の低価格化が意味するものは一体何か?

 筆者は、「PC、インターネット、携帯電話などのITが『一般汎用技術』になった」ことがその背景にあると考える。つまり、「DRAM 1ドル時代」とは、「半導体が一般汎用技術を支える基幹部品になった」ことを意味すると考える。早い話が、半導体はネジ・クギになったのである。

一般汎用技術とは何か?

 「一般汎用技術」(GPT:General Purpose Technology)とは、「産業横断的に使用され、さまざまな用途に使用しうる技術」のことである。一般汎用技術の具体例として、電力・電気、鉄道、自動車などが挙げられる

 一般汎用技術の概念は、スタンフォード大学の経済史家、ポール・デイビッドによって提唱された。

 デイビッドの定義によれば、一般汎用技術は、経済活動に不連続的な大変化をもたらす。その変化は一国全体、あるいは地球全体に広がる。その半面、インフラが整備される必要があるため、一般汎用技術の効果が表れるまでに相当な時間がかかる特徴があるという。