全体として、女性記者が核心にふれる質問をするとエッチな言葉が出てくる。音声が元はどうつながっていたかははっきりしないが、福田氏がそういう猥談をしたことは事実だろう。それ自体はほめられたことではないが、財務省の業務に支障の出る問題ではない。

オフレコ情報を週刊誌に売り込む背信行為

 それより重大なのは、女性記者が事務次官の話を録音し、それを週刊誌に流したことだ。この会話はもちろんオフレコなので、無断録音である。テレ朝はこの点について「第三者に録音を渡したことは不適切な行為だった」と謝罪した。

 ここには無断録音と情報の横流しという2つの問題がある。無断録音は記者がメモとして使うだけなら許されるが、オフレコ取材は文字通り録音抜き(off the record)だから、録音しないことが鉄則だ。

 それを直接、引用することもルール違反で、記事で使う場合は「政府首脳によると」などとぼかすことが慣例だ。もちろん音声データを使うことはありえない。そういう「オフレコ破り」をやったら、当の記者のみならず、その社も記者会見以外の取材はできなくなる。

 録音の漏洩は、さらに重大な問題だ。事務次官がテレ朝の記者に話すことは、記者クラブの加盟社の暗黙のルールの中で使われるという前提なので、それ以外のメディアに横流しすると信頼関係は崩壊してしまう。

 2008年に朝日新聞の記者が録音データを漏洩した事件では、その記者は退社処分となった。今回の事件はそれに近いが、もとの音声がインターネットで公開され、事務次官の辞任という結果に結びついた点でさらに重大だ。

 これを不問に付したら、テレビ朝日の記者は「夜回り」などのオフレコ取材はできなくなるだろう。役所の広報以外の報道ができなくなるのは言論機関の自殺行為である。