早稲田大学インド経済研究所所長の榊原英資氏。言うまでもなく、かつて大蔵官僚として金融市場に多大な影響力を及ぼし、「ミスター円」の異名を取った人物である。
『榊原式スピード思考力』(幻冬舎)では、不透明な時代を生き抜くために必要な思考法や、仕事・生活の心構えなどを著した。読者としてやはり知りたいのは、日本の財政金融政策を支えた榊原氏が、一体どのような思考法で行動していたのかということ。また、小泉内閣の民営化路線を一貫して否定し続ける理由とは。その思考の原点を聞いた。 (聞き手は鶴岡 弘之)

── この本では常識を疑い自分の頭で考えることの大切さを力説しています。自分自身が昔からそうだったのですか。

榊原式スピード思考力』榊原 英資著、幻冬舎、952円(税別)

榊原 そうですね。僕は基本的に新しいことをやるのが好きなんです。新しいことをやるためには今までの常識を疑い、柔らかく考えないとできませんからね。おかげで大蔵省(現財務省)にいた時、僕はどちらかと言うと異端だったんです。大蔵省は官庁の中の官庁みたいに保守的な所でしたから。

──大蔵省時代を振り返って、柔らかく考えたからこそ実現できたことはありますか。

榊原 例えば為替管理を撤廃して、完全自由化してしまったことなんかそうですよね。今でこそ個人投資家が外国為替証拠金取引なんてやってますけど、当時はなかなか考えられることではなかった。でも、もうそういう時代だろうということで、思い切って完全自由化に踏み切った。

 昭和天皇の在位60年を記念する10万円金貨を作った時もそうでした。最終的に300トンの金を集める必要があったんですが、これは年間の生産量の4分の1なんですよ。そんな量の金を調達できるのかという話もあったんですが、いろいろと知恵を絞ってなんとか価格を暴騰させないで買うことができた。

 常識だと思われていることにも、実はいろいろと穴があるし、ひっくり返すことができるんです。何をするにしても、まずは常識を疑ってかかることですよ。

間違えられていた「グローバリゼーション」

──世界経済の落ち込みが日本にも波及しています。その中で「日本は金融よりも、ものづくりに力を入れるべきだ」という意見が聞かれるようになりました。

榊原 確かにそういう声は多い。でも、それだって疑ってかかる必要がありますよね。

 というのも、例えば自動車とかテレビはこれから売れなくなる可能性が非常に高い。まずインドや中国が日本を追いかけてくるでしょう。そこそこの品質で安い物を作ってきます。すると、日本はなかなか対抗できないですよ。日本が作るのは、クオリティーは高いんだけれど値段が高いですからね。新興市場じゃなかなか売れないでしょう。