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(文:澤畑 塁)

PRE-SUASION:影響力と説得のための革命的瞬間
作者:ロバート・チャルディーニ 翻訳:安藤 清志
出版社:誠信書房
発売日:2017-12-12

 ひとつ考えてみてほしい。あなたはショッピングモールの一角で、そこを行く人々にアンケート調査への協力を求めている。でも、わざわざ時間を割いて調査に協力してくれる人はごくわずかだ。では、もっと多くの人に協力してもらうためには、あなたは彼らにどういうふうに声をかけたらよいだろうか。

 本書は、社会心理学者のロバート・チャルディーニによる単著で、あのベストセラー『影響力の武器』の続編にあたるものである。かつてチャルディーニは、さまざまな業界に自ら飛び込み、説得のプロたちが用いる「影響力の武器」を探り当てた。すなわち、彼らが説得の際に用いる特徴的な手法として、「返報性」「好意」「社会的証明」「権威」「希少性」「一貫性」の6つを突きとめたのである。だがその後の研究によって、チャルディーニはいまひとつの事実に思い至る。それは、説得のプロたちが巧みなのはなにも説得の瞬間だけではない、という事実である。

巧妙な下準備、それがプリ・スエージョン

 本書『PRE-SUASION』の主題は、「説得上手な人たちは事前に何をしているか」である。チャルディーニによれば、「説得の達人を達人たらしめるのは、下準備、すなわち受け手がメッセージに出会う前から、それを受け入れる気になるようにする行為」にほかならない。説得の達人たちはけっして出たとこ勝負をしているのではない。そうではなく、彼らは説得を行う前からじつに巧妙な下準備を行っているのである。その下準備のことを、「説得(persuasion)の前に行う」という意味を込めて、チャルディーニは「プリ・スエージョン(pre-suasion)」と表現しているのだ。

 ならば、説得の達人たちは下準備として何を行っているのだろうか。最大のポイントは、相手の承諾を引き出しやすくなるような「特権的瞬間」を作り出すことにある。ここで、冒頭の問題に戻って考えてみよう。