つまり、とても成長性が期待されていたビジネスである・・・。のだが、ゆえに大量の後追い業者が参入し、短期間のうちに死屍累々の惨状を呈するようになった。

 10月27日付けの『界面新聞』によると、すでに「楽電」「小宝充電」「泡泡充電」「創電」「放電科技」「PP充電」「河馬充電」の7社が会社清算段階に入ったという。特に「河馬充電」は今年4月に数千万元(数億円以上)の投資マネーを集めたばかりで、今後のトラブルが予想されている。

 ほか、今年8月には「HI電」が、従業員に対して月給を4000元(約6万9000円)から1800元(約3万1000円)に大削減。さらにある従業員には「働き続ける気なら、自費で新疆ウイグル自治区のカザフスタン国境の街に赴任しろ。3日以内に来なければクビ」という無茶すぎる通告を出すなど、リストラ問題が紛糾中(ほかにロシア国境の黒龍江省黒河市、ベトナム国境の雲南省紅河ハニ族自治州、内モンゴルのゴビ砂漠のなかの街などに同様の移動を命じられた従業員もいる)。さらに「来電」は大手の「街電」と権利侵害問題で泥沼の法廷闘争中だ。

北京市内の喫茶店に置かれた、無慈悲なリストラを決行中の「HI電」のシェア充電器。同店舗内には「街電」と「小電」の充電器も置かれて3社でバトルしていたが、有料の充電ニーズがそこまで多いわけがない(筆者撮影)

 現在、シェア充電器業界で比較的元気なのは、130都市に35万台を展開する最大手「街電」をはじめ、70都市に展開する「小電」、また上海や北京などで小電を追い抜く勢いの「怪獣充電」などだ。今年9月時点までに同業者が22社、ベンチャーキャピタルなど投資にかかわった機関が38社、動いた融資総額は業界全体で12億元(約207億円)という桁外れにバブリーな過当競争の世界で、この先も生き残れるのは果たしてどの会社なのだろうか。

「とりあえずやってみる」精神の強みと弱み

 中国人のビジネスは、良くも悪くも後先を考えずに事業を立ち上げ、スピード感を重視する傾向が強い。結果、ちょっと儲かりそうな風潮があると投資資金が一気に流入し、後追い業者が大量に出現して市場が混乱することになる。

 スマホ決済式のシェアリングエコノミーの場合、運営会社が倒産したときにデポジットの払い戻しがウヤムヤにされることも多いため、今後は現在以上に「しくじり企業」の後始末が社会問題化すると考えられる。なんともアブない大胆さに支えられているのが、中国的イノベーション業界なのである。

 産業発展の母体ともなる、スピード感や発想の柔軟性が生み出すダイナミズムを取るか。それとも、中小業者の準備不足ゆえに社会混乱をしばしば招きかねない業界の現状を思い切って引き締めるか。今後は中国政府にとっても難しい舵取りが迫られることになりそうだ。