文化が経済を育て、経済が文化を育む

 要因の第2は、文化と経済の循環に関する矢島氏の洞察にある。「文化が経済を育て、経済が文化を育む」と彼女は強調する。

 文化と経済の関係性を示す例として、よく引用されるのが、世界的タイヤメーカー「ミシュラン」だ。同社はレストラン、ホテルや観光の情報を提供する「ミシュランガイド」でも知られる。

 このガイドは、自動車が一般市民に普及していなかった1900年当時、「自動車旅行」という新しい文化・ライフスタイルの提案を通じて、自動車(結果として同社のタイヤ)の販売を促進しようという目的で発刊された。「ミシュランガイド」を通じて自動車旅行が文化・ライフスタイルとして定着すれば、自動車産業(=経済)が発展し、そこからまた新しい文化・ライフスタイルが提案されることで、さらなる経済発展が促進される。

 これは、しかし自動車産業に限定される話ではなく、多くのBtoC産業に当てはまる普遍的真理である。

 矢島氏は、日本のアイデンティティと言ってよい伝統産業をベースに、国内外の人々の潜在欲求(=wants)に訴求する斬新な製品を創出し、併せて、それを活用した魅力的な文化・ライフスタイルを提案する。それがアクセプトされることで経済発展が生じる。そして、そこから、その時代にふさわしい、また新たな「製品開発+文化・ライフスタイル提案」をしていく。文化と経済は、このような“スパイラル的発展”を遂げていく。

 しかし、そのためには、段階ごとに、時代に即した変革が必須であり、何をどのように変えるべきか(変えざるべきか)が厳しく問われることになる。矢島氏は、そのスパイラルの全体像を超長期的・俯瞰的に眺めることで、変えるべきこと(変えざるべきこと)が、おのずと明らかになるのである。

矢島氏(中央)とスタッフ