誰かの犠牲を前提にするビジネスの時代は終わった

 要因の第1は、彼女の経営哲学にある。

「あらゆる存在がやがて滅び、循環してゆくのが自然の摂理です。企業経営もその中に包摂されており、私たちはそうした摂理に適った行動を取ることが大切だと考えます。

 だから、誰かを不幸せにし、良心の呵責に苦しむような事業をしてはいけない。そういう意味で、WIN-WINという言葉は馴染みません。なぜなら、当事者同士が良ければ他者はどうなってもよいというニュアンスが感じられるからです。昔から日本に伝わる『三方よし』が私には一番しっくりきます。

 さらに言えば、“お客様は神様です”という価値観にも違和感があります。たとえば、顧客が低価格を望んでいるからという理由で、商品本来の適正価格をつけることができなくなり、結果として、伝統産業であれば、職人さんたちの“匠の技”を安く買い叩くことにつながります。そして、結局、そうした姿勢が伝統産業の衰亡を招いてきたのです」

 彼女の言う「不幸せにする“誰か”」には、自然界も含まれる。

「起業前に、ある職人さんとの会話で、“ものづくりを続けることは、ゴミを作ることになるのではないか? ものを作らなければ自然はそのままなのに”というお話が出ました。でも、誰かがものを作るのだから、そうであれば、自分が職人さんとともにゴミにならないものを作ろうと決心しました」

 自然の命を頂くことで自分たちが“商いをさせてもらっている”以上は、その頂いた命を大事に使い切りたいという想いから、「和える」では、何世代にもわたって使える製品作りをしている。製品が割れたり欠けたり破れたりした際には“直す”ことで長く使えることを知ってもらい、一部商品ではお直しも行っている。

 実は、こうした経営哲学こそが、今、日本を変えようとしつつある若手・中堅起業家層に共通する価値観となっている。