ウィキリークスに約25万件の米外交公電を暴露され、蜂の巣をつついたような状態だった米政府も、ようやく落ち着き、平常心を取り戻しつつある。
政権内で最も「機密情報」とその影響に精通しているロバート・ゲーツ国防長官は、当初から冷静な対応を変えていない。「確かにこの問題で米国は赤っ恥をかいたし、ばつの悪い思いをした。だが、米国外交には大した影響はないだろう」
26年間CIAに勤め、常に米国の安全保障に関わってきた彼は正しかった。今のところ、責任問題に発展するような事実は出てきていない。メディアも「告発」という言葉を控え、「公電の大量投棄」というような表現に変え始めている。
つまり、今回の機密情報の暴露には、明確な意図も目的もないのだ。内容も乏しい。内部告発と言えるような、政府の欺瞞や事実隠蔽が見えてこない。
これまでウィキリークスで明らかになった情報は、ニュアンスは違えどすでにメディアが伝えていたり、噂として漏れ聞こえていたことがほとんどだ。反対に、米国務省の外交官が予想以上に優秀で、きちんと仕事をしていることが明らかになりつつある。
ベトナム戦争の裏側を暴露したエルスバーグ
今回の史上最大量の情報漏洩事件は、公電の内容とは無関係なところで、深刻な問題を明らかにした。
米国で元祖機密漏洩といえば、1971年の「ペンタゴン・ペーパーズ事件」である。
45年から67年までの米国のベトナム政策の歴史をまとめ、トルーマンからジョンソンまでの4人の大統領が、いかに米国民を欺き、ベトナム戦争の泥沼化を招き、大量の人命を無駄にしたかを克明に記録した膨大な報告書が、国防相の元職員によって暴露された事件だ。
報告書は最高機密とされ、完成時に47巻(7000ページ)あった。
暴露したのはダニエル・エルスバーグ。ベトナム開戦当時は、ロバート・マクナマラ長官に直接仕え、参戦の正当化や、どのように事実を曲げて国民に戦況を伝えるかなどの工作を担当していた。その後、ベトナム戦争に軍人として参加し、米国に戻った後は、再び国防省関係のシンクタンクに勤めている。