第1の理由は、中国が金正日の健康が悪化し、世襲が切迫していると判断・認識していることだ。
仮に、あくまでも中国が金正恩の世襲を認めず、公式に世襲の「お披露目」を延ばせば、世襲準備不十分なままに金正日の死を迎えるような事態を招きかねない。
そうなれば、内部崩壊などのリスクが増大する可能性がある。
第2の理由は、金正恩・北の指導部へ恩を売ることを意図したからだろう。中国が強硬に金正恩への世襲に反対すれば、後々中朝関係が悪化しかねない。
中国側は、かつて金正日の世襲に鄧小平が執拗に強く反対したことが、金正日の対中認識・政策に悪影響を及ぼしたことに鑑み、世襲プロセスのスタート時点で、金正恩と金正日亡き後の北の指導部の心象を害することは得策ではない――と判断した可能性がある。
第3の理由。中国が金正恩への世襲を認める代わりに金正日は改革開放に踏み出すことを確約した可能性が高いと考えられる。
中国は、これ以上北朝鮮の経済が深刻化し、いつ崩壊するかもしれない状態が続くことは困る。従って、世襲容認を条件に、かねて要望している改革開放に踏み出すことを強く求め、北朝鮮がこれに応じた可能性が高い。
金日成・正日父子の世襲はなぜ成功したのか
先の金日成・正日父子の世襲の経緯を振り返ることは、今回の金正日・正恩父子の世襲の成否を占ううえで参考になるものと思う。
金日成・正日父子の世襲が成功した要因として、以下の理由が考えられる。
●金正日の出自・性格・資質
(1)出自
金正日の出自は、父・金日成は言うに及ばず、母親・金貞淑も金日成の配下で抗日ゲリラ戦に従事しており、北朝鮮の基準では最も誇るべき経歴の持ち主だった。
(2)性格・資質
金正日の性格については、元KCIA北朝鮮調査室長の宗奉善(ソンボンソン)が『金正日徹底研究』(作品社)で詳しく分析・説明している。
これによると、金正日は「利口で、親和力と芸術的感覚」を持ち、「組織運営能力」「部下と側近から確固たる忠誠心と服従心を引き出す能力」「狡猾さと果断さ」を備えているという。
その一方で、「残忍性」「せっかちさ」「傲慢性」「冷血性」「他人に対する不信と閉鎖性」「心的不安定」「気まぐれで暴力に無節操」「小英雄主義と冒険主義的な顕示欲及び陰険さと狡猾さ」も持っているという。
宗奉善によれば、これらの「二重人格的」資質は、独裁者としてふさわしい資質で、ヒトラーやスターリンとも共通するものだと指摘している。
