我が国の医師不足は深刻だ。「OECD Health Statistics (2014)」によれば、我が国の人口1000人あたりの医師数は2.29人。ドイツ3.96人、フランス3.08人、英国2.75人、米国2.46人とは比べものにならない。
さらに、我が国では医師の遍在が著しい。基本的に西高東低で、東京都(3.05人)を除く、東日本は少ない。京都府3.08人、徳島県3.03人に対し、埼玉県1.53人、千葉県1.83人、福島県1.89人、神奈川県2.02人という具合だ。
都道府県内でも遍在している。筆者が活動している福島県の場合、福島市3.32人、郡山市2.39人、いわき市1.72人という具合だ。
余談だが、いわき市は全国の政令指定都市、中核市の中で岡崎市(1.29人)、船橋市(1.36人)、豊田市(1.50人)についで少ない1.72人だ。トップの久留米市(5.51人)の3分の1以下である。
医師偏在防止という名の天下り制度
医学部教授たちが、医師偏在を是正しようと動き出した。その中心が一般社団法人日本専門医機構だ。
専門医に関する組織が医師の偏在対策をすることに違和感を抱かれる方も多いだろう。その仕組みは、若手医師が専門医を取得したければ、日本専門医機構が認める病院で勤務しなければならず、日本専門医機構は病院認定において地域のバランスを考慮するという形だ。
吉村博邦・日本専門医機構理事長は、ホームページの「理事長就任挨拶」の中で、「地域医療の確保対策について、各領域学会に対し、地域の医師偏在防止の現状についての意見を求め、また、さらなる具体的な対策案を検討する」と述べている。
このやり方に関係者から非難が寄せられている。日本内科学会や日本産科婦人科学会(日産婦)など、学会によって事情は異なるが、大学病院での勤務が、半ば義務化されている地域が多いからだ。
例えば、日産婦が認定する専門医資格を取ろうとすれば、若手医師は日産婦が認定する拠点病院に所属しなければならない。24の県では、県内に大学病院しか拠点病院がなく、この制度が運営されれば、「専門医を餌に強制的に入局させる」ことになる。
現在、若手医師や病院団体はもちろん、医師免許を持つ市長で構成される医系市長会も反対した。この制度が運用されると、地域医療が崩壊するというわけだ。