東京都の小池百合子知事は2月16日、年収760万円未満の世帯を対象に私立高校の授業料44万2000円(年額)を給付する方針を明らかにした。これによって東京都の私立高に通う生徒16万7000人のうち、5万1000人の授業料が無償化される。
高校無償化は昨年、彼女が都知事選挙に立候補したときの公約であり、「人への投資」は自民党も民進党も公明党も掲げている。都議会でも、全会一致で可決される見通しだ。それが大衆受けして政治的においしいことは明らかだが、これで肝心の高校生は救われるのだろうか?
「バラマキ教育」がポピュリズム競争を生み出す
高校無償化で、公立高校と私立高校の区別はなくなる。公立高校については、すでに全国で年収910万円未満の世帯について無償化されており、私立もこれとほとんど同じになる。
これは定額の教育バウチャー(金券)を配るのと実質的に同じだが、バウチャーは本来すべての学校を私立にして国民負担を一元化するものだ。今のように都立高校のコストを都が負担したままバウチャーを実施すると、都民は二重の負担を強いられる。
さらに問題なのは、これが自治体のポピュリズム競争を生み出すことだ。2017年度から埼玉県も東京都に追随して年収609万円未満は無償にするが、神奈川県では限度額は250万円だ。神奈川から東京に住所を移して高校に通わせる親が増え、いずれは神奈川県も東京都並みに引き上げざるをえないだろう。
だから容易に想像できる結果は、こうした競争で全国の高校が無償化されることだ。東京都の財政はまだ黒字だが、今後は高齢化で急速に財政が悪化すると予想されている。他の多くの自治体はすでに赤字だが、東京都が「プライスリーダー」になると追随せざるをえず、財源の足りない分は公債でまかなうしかない。